「おひひと(覆ひ人)」。全体を覆(おほ)っている人、全体に影響力を持つ人。統率者。首長。

「『汝(な)は我(わ)が宮(みや)の首(おびと)任(た)れ』」(『古事記』:これは、管理者、とでもいうような立場)。

「然(しかるに)、黎元(おほみたから)蠢爾(むくめくむしのごとく)にして、野(あら)き心(こころ)を悛(あらた)めず。是(こ)れ国郡(くにこほり)に君長(ひとごのかみ)無(な)く縣邑(あがたむらに)首渠(おびと)無(な)けれぱなり」(『日本書紀』:「ひとごのかみ(ひとのこのかみ(人の子の上))」は人(ひと)であり子(こ)が上(かみ)と仰ぎ見るような存在。この「かみ」は、神、ではなく、上(下記※))。

 

※ いわゆる「上代特殊仮名遣い」において「かみ(神)」の「み」は乙類表記になり、「かみ(上)」の「み」は甲類表記になります。

「上代特殊仮名遣い」とは、いろいろな子音において、母音I音・E音・O音に二種の表記が現れるというものです。一つの音(オン)をさまざまな漢字で書いた時代にそういうことが起こりました(漢字は表音文字ではないので)。たとえば「き」の表記が甲類群の漢字表記と乙類群の漢字表記に分かれた。「甲」「乙」には、たとえばどちらが主というような、意味はありません。ただ二種があることを識別する記号です。この現象は江戸時代に本居宣長が発見し、弟子の石塚龍麿(たつまろ)が資料を渉猟しつつもよくわからないまとめ方をし、明治最末期から昭和にかけての国語学者・橋本進吉が整理しまとめあげるという三人がかりの仕事によるものです。「上代特殊仮名遣い」という名称は橋本進吉によるものです。この発見によって、古代の日本語には母音(音韻、という言い方をする人もいる)が八つあった、という人もいるのですが、この現象は、たとえば、「き」は漢字群で甲類表記キになり、一音化して聞こえる「くひ」は漢字群で乙類表記キになる、という現象です。日本語は古代も今も母音は「あ・い・う・え・お」の五つです。紀元前であれ、今であれ、日本語は基本的部分になんの変化もありません。たぶん発生当初からそうなんでしょう。それを明らかにするのもこのサイトの仕事の一つです。