「お」の、O音の、遊離感のある目標感に関しては「おき(置き・措き)」の項(9月2日)。「おひ(追ひ・逐ひ)」は、そうした目標・対象に対しそこへ向かって行く方向感のある対象感(追ひ)、遊離感のある目標感(逐ひ)、のある動態情況になること。この「おひ(追ひ)」と「おひ(逐ひ)」の関係は「おき(置き)」(机にコップを置き)と「おき(措き)」(我を措きて人はあらじと・万892)の関係に似ている。

 

(追ひ)

「…夕猟(ゆふかり)に千鳥踏みたて 追ふごとに逃(ゆる)すことなく…」(万4011:これは鷹狩の鷹が獲物をめざし飛んでいる)。

「あかつきに舟を出だして室津をおふ」(『土佐日記』:室津をめざしている)。

「或いは累代勲功の跡をおひ………速やかに賊徒を追討し」(『平家物語』:先祖の事績をめざしこれにならう)。

「日を追って」(日毎に)。

 

(逐ひ)

「…うれたきや醜(しこ)ほととぎす暁(あかとき)のうら悲しきにおへどおへどなほし来鳴きて…」(万1507)。

「田守の物おひたるこゑ、いふかひなくなさけなげにうちよばひたり」(『蜻蛉日記』)。

「『ことごとしく(いかにも重大事であるように)前駆(さき)なおひそ』とのたまへば」(『源氏物語』:「前駆(さき)をおふ」とは、行列などで、進行の先に居る(在る)障害になりそうなものや人を除(の)けること)。