◎「おなじ(同じ)」の語源

「おのはにひし(『己は』にひし)」の音変化。「にひし」が「じ」になっている。「おんなじ」「おなし」とも言う。「ひし」は密着・密集などを表現する擬態→「ひし」の項。この「ひし」が完全な合致、完全に合うこと、を表現する。たとえばAが『己(おの)は…』と自分を提示しBがその「おの(己)」に完全に合うとき「AとBは己はにひし→おなじ」。つまり、「AとBはおなじ」とは、AにおいてBは自己でありBにおいてAは自己であること。

「おなじ」は状態を表現する名詞ですが、それを語幹とする形容詞としても用いられます。その場合、それは「ひし」を語幹とするク活用形容詞の状態になりますが、「じ」が活用語尾のように見え、辞書類では「おなじ(同じ)」は多くシク活用に分類されます。状態を表現する名詞でもあり形容詞としても利用される結果「おなじ国」といった表現も「おなじき里」といった表現も現れます。

表現の視点は異なりますが言っていることは異ならない表現に「おやじ(同じ)」があります(下記)。

「月見ればおなじ国なり山こそは君があたりを隔てたりけれ」(万4073)。

「あしひきの山はなくもが月見ればおなじき里を(於奈自伎佐刀乎)心隔てつ」(万4076)。

「君がむた(あなたとともに)行かましものをおなじことおくれて(残されて)をれどよきこともなし」(万3773:「君がむた行かましものを」は「あなたとともに行ったら…とも思っていたのに」のような意(「まし」はその項)。「おなじこと」は「今も同じだ(今もそう思っている)」ということ)。

 

◎「おやじ(同じ)」の語源

「おやはにひし(『親は』にひし)」。「ひし」は密着・密集などを表現する擬態→「ひし」の項。この「ひし」が完全な合致、完全に合うこと、を表現する(上記と同じ)。たとえばAに関し、Aの親(おや)は、それを生み出している、在らせている、のは、と提示しBがそれに完全に合うとき、AとBはそれを在らせているものやことは異ならず、AとBは「おやはにひし(『親は』にひし)→おやじ」。表現の視点は異なるが言っていることは異ならない表現に「おなじ(同じ)」があります(上記)。奈良時代には「おやじ」も「おなじ」もどちらも用いられました。

「妹(いも)もわれも心はおやじ(於夜自)」(万3978)。

「橘は己(おの)が枝枝(えだえだ)生(な)れれども玉(たま)に貫(ぬ)くとき同(おや)じ(於野兒)緒(を)に貫(ぬ)く」(『日本書紀』歌謡125)。