「おどろき(驚き)」(動詞)

「おのとどろき(己轟き)」。「おの(己)」「とどろき(轟き)」はその項参照(「とどろき(轟き)」は音が響くことを表現します)。「おのとどろき(己轟き)→おどろき」は、自分に自分という音響が響いたような状態になること。人は突然外部的な衝撃を受ければそうなります。『類聚名義抄』の「愕」の読みには「オドロク」のほか「オビユ」もあります。衝撃を受け一瞬身が竦(すく)むようになるということでしょう(自己防衛として人は誰でもそうなります)。後世では(古代でもそうですが) 「おどろき」はそうとうな衝撃を受けショック状態になったことを表現しますが、古くは、眠っていた状態から目を覚ますことも「おどろく」と表現しました。「夢の逢ひは苦しかりけりおどろきて掻き探れども手にも触れねば」(万741)。また、心情的に新鮮な衝撃が広がることなども「おどろく」と表現した。「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」(『古今集』)。

「天皇(すめらみこと)則(すなは)ち(おどろ)きて、皇后(きさき)に語(かた)りて曰(のたま)はく。『……』」(『日本書紀』:これは、「(天皇が)皇后の膝に枕して昼寝したまふ」とき、「(皇后の)眼流(なみだ)流(くだ)りて帝(みかど)の面(みおも)に落ち」天皇が目覚めました。「寤(ゴ)」は眠りから覚めることを意味します)。

「物におそはるる心ちしておどろき給へれば火もきえにけり」(『源氏物語』:これも目を覚ました)。

「郭公(ほととぎす)けさ(今朝)なく(鳴く)こゑ(声)におとろけは君を別れし時にそありける」(『古今集』:ふと、胸に響くような思いがした。歌の前書きによれば、前年ある人が死んだその翌年のその日のことらしい)。

「(スサノヲノミコトが)則(すなは)ち天斑駒(あめのぶちこま)を剥(さかはぎには)ぎて、殿(おほとの)の甍(いらか)を穿(うが)ちて投(な)げ納(い)る。是(こ)の時(とき)に、天照大神(あまてらすおほみかみ)、驚動(おどろ)きたまひて…」(『日本書紀』:これは突然の出来事に衝撃を受けています)。

 

◎「おどろかし(驚かし)」(動詞)

「おどろき(驚き)」の使役型他動表現。驚く情況にすること。