◎「おとなし(大人し)」(形容詞シク活用)

「おとなはし(大人愛し)」。「はし(愛し)」は感嘆表明。「おとな(大人)」はその項(10日27日・昨日)。「おとなはし(大人愛し)→おとなし」は元来は大人(おとな)であること(社会性が備わっていること)に感心することを表明し、そう言われる人は落ち着いてはいるのですが、騒がしく落ち着きの無い子に「おとなしくしろ」と言ったりすることの影響でしょうか、後世では「おとなしい」はあまり自己主張感の無い印象を表現したりします。

「かへりごと(返事)はかしこ(そこ)なるおとなしき人してかゝせてあり」(『蜻蛉日記』:この「おとなしき人」は、社会的な思慮分別を備えた人、のような意)。

「児の年十一二になりぬ。長(おとな)しく成るままには…」(『今昔物語』:この「おとなしくなる」は、成長すること)。

「それはかたがたが老中役、再三お諫(いさ)め申されてこそおとなしい供いふべけれ」(「浄瑠璃」:これは、おとならしい、というような意味。口うるさく言うことが「おとなしい」)。

「さぞ馬上が寒からふ。おとなしい。でかしやった」(「浄瑠璃」:愚痴や泣き言を言わないことが「おとなしい」)。

 

◎「おとなひ(訪ひ)」(動詞)

「おとねはひ(音音這ひ)」。「おと(音)」には思念性がある(10月7日)、「ね(音)」には働きかけの作用がある。すなわち「おとねはひ(音音這ひ)→おとなひ」は、音響や、音の思念性や、働きかけの作用が感じられる情況になること。それが「おとなひ」。音声を出したり、人を訪ねたり、文(ふみ)を届けたりします。

「木の葉にうづもるるかけひのしづくならでは、つゆおとなふものなし」(『徒然草』:音響を発する)。

「ふりにたるあたりとて、をとなひきこゆる人もなかりけるを」(『源氏物語』:訪れる)。

「さりとて、かき絶えをとなひきこえざらむもいとほしく…」(『源氏物語』:文(ふみ)を届ける)。