「おとつていれ(音伝入れ)」。「おとでいれ」のような音(オン)を経つつ「おとづれ」になった。動詞「つて(伝て)」はその項(同動の経過(連動)があることを表現する動詞)。「ことづて(言伝)」は言(こと)を伝えることですが、「おとつて(音伝)」は音を伝えること。「おとつていれ(音伝入れ)→おとづれ」はそれを入れること。「おと(音)」という言葉には思念発生感がある(→「おと(音)」の項・10月17日)。「おとづれ」は、実際の音声・声・言葉を入れ交わすこと(つまり、会うこと)も言い、また、その代用的な、文書を送ること、文(ふみ)を送ることも言う。中将に文を送りいろいろと気遣ったりすることを「中将におとづれ」と言ったりする。
「柏原といふ所を立ちて、美濃の國關山にもかゝりぬ。谷川霧の底におとづれ……日影も見えぬ木(こ)の下道…」(『東関紀行』:霧の奥から谷川の音が聞こえてくる)。
「雲居に郭公(クヮクコウ)二声三声おとづれてぞ通りける」(『平家物語』)。
「年ごろをとづれざりける人の、桜のさかりに見にきたりければ」(『伊勢物語』:現実にやって来る)。
「風のたよりのことつても、たえて久しくなりければ………月に一度などは必ずをとづるるものをと待ち給へども…」(『平家物語』:消息を伝える文(ふみ)を待っている)。
「釜次郎は……同じく糾問所の手に掛って居る。所が頓(とん)と音づれが分らない」(『福翁自伝』:事情が伝わるということがなく、それがわからない)。
「春のおとづれ」。