「おちゅぱはい(御ちゅぱはい)」。「お(御)」は語頭に添えられ尊重感を表現するそれ。「ちゅぱ」は「すぱ」の幼児的発音。「すぱ」は、煙草を吸っている状態を表現する擬態に「すぱすぱ」がありますが(→「たばこすぱすぱ猿雀ども」(江戸時代の俳諧))、何かを吸っている状態を表現する擬態。「はい」は、応諾・受諾を表現する返事の言葉ですが、この語は軽く注意を促し唐突に何かをすることの不躾さをさけるためにも用いられ(→「はい、どうぞ」「はい、これ」)、この場合の「はい」も何かを差し出す(与える)呼びかけ。つまり「おちゅぱ、はい」は、吸う何かを与える際の呼びかけを幼児的に表現したものであり、乳幼児に乳を与える際に母親がそのように声をかけ与えたのでしょう。この「おちゅぱはい→おっぱい」が授乳、母乳、そしてその時に乳幼児に提供される乳房、を意味するようになった。この語がいつ頃からあるかは判然としませんが、江戸時代最末期の書にあり、これはほとんど近代以降、と言っていい新しい語でしょう。
「乳汁をおつぱいとは、ををうまいの約(つづま)りたる語なるべく」(『於路加於比(おろかおひ)』(1859~60年):この随筆を書いた笠亭仙果(リュウテイセンカ)という人(下記※)はそう考えたということです)。
※ 本名は高橋広道、通称は弥太郎。柳亭種秀、二世柳亭種彦とも称した。江戸時代最末期の戯作家。