◎「おぢ(懼ぢ)」(動詞)

「おえおち(衰化え落ち)」。古く、「おめ(臆め)」(その項)と同じ「お」による衰化することを表現する「おえ(衰化え)」という動詞があったと思われます→「おい(老い)」の項(8月29日)。ただし、この動詞は資料にはありません。「おえおち(衰化え落ち)→おぢ」は、気力が衰化し何かから遊離した状態になってしまうこと。はばかられたり恐ろしかったりしそばへ寄れない状態に陥ること。語尾の濁音は持続感の表現でしょう。この動詞は上二段活用です。否定表現は「おぢず(懼ぢず)」。「おどし(威し)」という動詞がありますが、これは、「おち(落ち)」→「おとし(落とし)」のような、「おぢ(懼ぢ)」の他動表現というわけではないでしょう(「おどし(威し)」の項)。アクセントが異なります。

「いかづちの光のごときこれの身は死にの大君常にたぐへりおづべからずや」(『仏足石歌』:「これの身」は、この身。それは雷光のごとく一瞬の輝きだと言っている)。

「おぢけづく(怖気づく)」。

 

◎「おぢなし(懼ぢなし)」(形ク)

「おぢになし(懼ぢ似無し)」。「おぢ(懼ぢ)」において似るものが無い→ひどく懼ぢ(臆病)だ、の意。この語は「懼(お)ぢ無し」(懼(お)ぢが無い)ではありません。また、これは「をぢなし(拙劣し)」とは別語です。

「舍人(とねり)性(ひととなり)懦(おぢな)く弱(よわ)くして」(『日本書紀』)。

「怯 ……オチナシ」(『類聚名義抄』)。

 

「おちぶれ(零落れ)」(動詞)

「おちぶりいれ(落ち振り入れ)」。「おちぶり(落ち振り)」が(社会的状態として)入る。(社会的に)落ちた様子になること。

「此の姫君の母北の方のはらから、世におちぶれて受領の北の方(妻)になり給へるあり」(『源氏物語』)。