「おにしおほし(おに為多し)」。「おにし(おに為)」に関しては「おずし」(形ク:9月29日)の項。「おにしおほし(おに為多し)→おぞし」は、その「おずし」と同じ意味での「おにし(おに為)」になることが多い、その傾向が強い、ということです。基本的には、何かに熱中・没頭しているような状態も含め、ひどく興奮した状態になることを意味します。その傾向が強いということは、気性の激しさを感じさせたり(A)もしのすが、思考反応が早く激しく、利発(知の立ったあまり好感のもてない印象も抱いている)、という意味にもなり(B)、そこに「鬼」的な嫌(いや)な印象が重なれば、悪賢い(C)、という意味にも、知が立っているようだが間違っている、という意味、さらには、圧迫感を感じて嫌な(D)、といった意味にもなります。
(A )「物づつみせず、はやりかにおぞき人」(『源氏物語』)。(B )「うちの后、いとをぞく心かしこくおはし給ふ」(『宇津保物語』)。(C)「楠がおぞひ事共(ことども)工(たく)みては」(「俳諧」)。(D)「胡国から来たおぞい僧どもはみな具足など着て…」(『江湖風月集抄』)。
この語「おぞし」は、「おずし」(9月29日)に似てはいますが、「おずし」よりも「おにし(鬼為)」であることが強烈であり、それに対する反感的反応も激しい。「おずし」の語幹によるその動態表現「おずみ」、それによる形容詞「おずまし(悍し)」(形シク)、と、この「おぞし」の語幹によるその動態表現「おぞみ」、それによる形容詞「おぞまし(悍畏し)」(形シク)がありますがが、後者の「おぞまし(悍畏し)」はそういう反感・嫌悪が強い表現です。また「おぞまし」(形シク)には、この「おぞし」の語幹「おぞ」の動態表現「おぞみ」による形容詞「おぞまし(悍畏し)」と、他の独立した動詞「おぞみ」による形容詞「おぞまし(鈍し)」の二つがあります。「おずまし(悍し)」「おぞまし(悍畏し)」、「おぞまし(悍畏し)」「おぞまし(鈍し)」ということです。
◎「おそき(襲着)」
「おほそひき(大添ひ着)」。上着。
「子ろがおそきの有ろこそ良(え)しも」(万3509:これは古代東国の歌であり、方言的変化があります)。