◎「おじゃん」
この語を動詞の「じゃみ」とする説はあります。しかし、その場合その動詞「じゃみ」の語源に関しては何も言っておらず、その「じゃみ」は(そして「おじゃん」も)一般に半鐘の音に由来すると言われており、その場合、結局、「おじゃん」は半鐘の音に由来することになります。半鐘の音に由来するとは、江戸時代、火災が鎮火すると半鐘の一点打ちだか二点打ちだかをしたからだそうです。燃えてしまってこれでおしまい、という意味でしょうか。しかし、火災鎮火の合図がそのような意味になるかとも思われ、あの音は「ジャン」ではなく「カン」ではないかとも思われます。ただし、警報的に打ち鳴らす早鐘(はやがね)は「じゃんじゃん(ぢゃんぢゃん)」と表現します。
「コレ、聞いてくれ。七十両のあの金を、中間の市助が、失(うしな)うたと云ひ出して、ざつと相談、おぢやんとなられた」(「歌舞伎」『伊勢平氏額英幣(いせへいじうめのみてぐら(下記※))』:思っていた算段・計画が台無しになった。「なられた」は「鳴られた」であり、早鐘の音が意識されているということでしょうか。つまり、昔から「おじゃん」には鐘の音が意識されている)。
「折角、よい口があって、その店へ入るばかりに成ったところが…広田が裏から行って私の邪魔をした。その方もおじゃんでさ」(『家』島崎藤村)。
※ なぜ「額」と書いて「うめ」なのでしょう。「額紫陽花(ガクあじさゐ)」や「金額」がかかっていてそれで「うめる(埋める):満たす」ということでしょうか。歌舞伎の題名は独特な読み方をするものがあります。「顔鏡」→「かほみせ」、「色読販」→「うきなのよみうり」、「春姿」→「はなのはる」…。
◎「じゃみ」(動詞)
「ジャマ(邪魔)」(下記※)の動詞化。「邪魔(ジャマ)」になること。事態進行の阻害要因が入ること。事態が途中で破綻すること。
「何卒(どうぞ)そっちの身請をじゃみる様に言廻してたもるまいか」(「浄瑠璃」:不成功に終わり台無しになるようにする)。
「『……』とつっぱれば、此相談はじゃみる筈なり」(「滑稽本」:台無しになる筈)。
※ 「邪魔 (ジャマ)」はもともとは邪見によって仏道に障害・阻害を生じさせる悪霊・悪魔のようなものですが、一般的に妨害や障害となるものやことも言います。