◎「おしてる(枕詞)」
「おしつへる(押しつ謙る)」。こちらから相手を押しながら(相手に力を加えるような態度で接しながら)謙(へりくだ)ってしまう→「なには(汝には):あなたには」(あなたはそれほど立派だ)、という表現。これが地名「なには(浪速・難波)」に掛かります。つまり「なには(難波)」の枕詞。存在化させて照る、という一般的表現の「おしてる」もあります→「わがやどに月おし照れりほととぎす…」(万1480)。
「大君の命(みこと)恐(かしこ)み押光(おして)る難波(なには)の国に…」(万443)
◎「おしなべ」(動詞)
「おしなめへ(押し並め経)」。「おし(押し・推し)」は、何かに対し、それを独自の存在として遊離させる動的努力をすること。「なめ(並め)」は均質化すること。「へ(経)」はそれが経過する。遊離させ・対象化し(押し)均質化・一般化する(並める)経過がある、とは、なにものか・なにごとかそれぞれの個別性がなくなり全体が質的に同質化し総化し、ということです。
「売比(めひ:地名)の野の薄(すすき)おしなべ降る雪に…」(万4016:一つ一つの薄の評価など無く総的に)。
「五日、夜中ばかりに、世の中騷ぐを聞けば、さきにやけにし(焼けにし)にくどころ、こたみ(このたび)はおしなぶるなり」(『蜻蛉日記』:「さきに焼けにしにくどころ」は、前に焼けた迷惑なところ、ということか?。今回は全焼だと言っています) 。
「おしなべて」は部分的・個別的質はなくなり全体が同質化して、総的に、の意。「おしなべてわれこそをれ」(万1:『万葉集』冒頭の歌)。
「おしなべての人」は取り立てて個別的に評価されることのない、一般的な普通の人。「西の廊はをしなべての人の曹司」(『源氏物語』:「曹司(ザウシ)」は部屋、宿所。「廊(ラウ)」は建物と建物をつなぐ屋根付きの通路的建物を言いますが、建物から出ている細長い建物も言います)。
◎「おしまづき(几)」
「おしまつき(押し間調)」。「つき(調)」はその項参照。この場合は「えつき(役調)」(8月22日)、労務奉仕です。「おしまつき(押し間調)→おしまづき」は、(主人などが)押している間だけ役調(つき:労務奉仕)になるもの、の意。これは古代の表現ですが、脇息(ケフソク:坐している際に肘を乗せかける道具)を擬人化して言いました。後世(江戸時代など)には机を言ったりもしました。
「有馬皇子(ありまのみこ)、赤兄(あかえ)が家(いへ)に向(ゆ)きて樓(たかどの)に登(のぼ)りて謀(はか)る。夾膝(おしまづき)自(おの)づからに断(を)れぬ…」(『日本書紀』:斉明天皇四(658)年十一月。いわゆる「有馬皇子の変」と言われるもの)。