「おえいゐ(おえい居)」。「おゆゐ」のような音(オン)を経、「おい」になった。語頭の「お」は空虚感・不活性感が表現される「あ」(→「あえ(落え)」の項)のO音化。「おめ(臆め)」の「お」に同じ。その「あ」がO音化し目標感・存在感が生じています(そうしたO音に関しては「おき(置き・措き)」の項)。「え」は「あえ(落え)」「はえ(生え)」その他の活用語尾にあるそれ。これが受身・可能・自発の助動詞「え」の連用形のように情況表現した。この「え」はY音です。古く、「おめ(臆め)」と同じ「お」を語幹としそれによる衰化することを表現する「おえ(衰化え)」という動詞があったかもしれませんが、資料にはなくなんとも言えません。「い」は動態の進行感・持続感を表現します。「おえいゐ(おえい居)→おい」は、(活動的な)空虚感・不活性感のある状態に持続的にあること。そうした恒常的状態に入っていること。これが、人間の肉体が経年変化によりその機能が不活性化することを表現しました。

この動詞は上二段活用です。否定は「おやず」や「おえず」ではなく「おいず」。

「中臣間人連老(なかとみのはしひとのむらじおゆ) 老、此(これ)をば於喩(おゆ)と云(い)ふ」(『日本書紀』)。

「さかさまに行かぬ年月よ。おいはえのがれぬ業(わざ)なり」(『源氏物語』)。

「朝霧の消(け)やすきわが身老いぬともまた若(を)ちかへり君をし待たむ」(万2689)。