◎「えみし(蝦夷)」

「えみしし(え見獣)」。「え」は驚き呆れた発声。「えみしし(え見獣)」は、よくもまぁあんなものを見たものだと思う獣(動物)、ということであり、古代における、服(まつろ)はぬ者たちへの蔑称です。ただし、古代には、九州方面の服(まつろ)はぬ者たちは伝統的に「くまそ」といわれました。しかし、「くまそ」の名は地名(九州の地域名)に結び付き、用いられ方は地域限定的でした。

「えみし(愛瀰詩)を ひだりももなひと人は言へども…」(『日本書紀』神武即位前・歌謡11:「ひだり」は「ひとたり~(一足り~)」でしょう。一人で~に達する、の意。「ももなひ」は「ももにあひ(百に合ひ)」。「ひだりももなひ(ひとたりももにあひ:一足り百に合ひ)」は、一人で百人に相当する、の意)。

「蝦夷(えみし)叛(そむ)けり」(『日本書紀』仁徳天皇五十五年)。

 

◎「えびす(夷)」

「えびせゐ(蝦背居)」。蝦(えび:海老)の背のようなものたち、の意。背を曲げ屈服している、ということである。「えみし(蝦夷)」のように、これも古代における服(まつろ)はぬ者たちへの蔑称です。「えみし」や「えびす」が単に「戎」や「夷」ではなく、「蝦(えび)」の字が加わり、「蝦夷」と書かれるようになったのはこの語の影響によるものでしょう。

「遠く西の戎(えびす)を誅(つみな)ふに…」(『肥前国風土記』)。

この語は後には(特に文化的に遅れた粗放な印象の)田舎者なども意味するようになりました。「あづまえびす(東夷)」。

 

◎「えぞ(蝦夷)」

「えゾウ(え族)」。「ウ」の脱落。「ゾウ」は「族」の音(オン)「ゾク」の音便形。「ゾクルイ(族類)」を「ゾウルイ」と言ったりします。「え」は「えみし(蝦夷)」「えびす(夷)」の語頭音によりそれらを表現したもの。全体は「えみし(えびす)族」の意。すなわち、えみし(えびす)たち、ということ。そして、それらが居る(生活している)、あるいは、(現実には居なくても)そのような印象の、地域も漠然と「えぞ」と呼ばれた。日本の北方域の古い地域名。この語は1000年代頃からのものでしょう。

 

◎「えびす(夷)」(福の神)

「ゑみゐシウ(笑み居祝)」。「シウ」は「祝」の音(オン)。この字は「シウ」と「シュク」の音(オン)が混用されています。「ゑみゐシウ(笑み居祝)→えびす」は、笑み居ることの祝いであり、笑み居ることを祝う神、笑みをもたらす福の神、を意味します。これは民間信仰です。「ゑびす」とも書きますが、こちらの方が本来の表記に近いものでしょう。この「えびす(夷)」への信仰は遅くとも平安時代最末期にはある。