◎「うるせし」(形ク)

「うるせし(うる狭し)」。「うる」はその項参照(7月28日(一昨日)の「うる」))。これは語音が「うるさし(うる狭し・煩し・五月蝿し)」(7月29日(昨日))に似た印象を受ける語ですが、「さし(狭し)」は障害感があることを表現しますが(つまり「うるさし」は「うる」で障害感がある)、「せし(狭し)」はS音がE音化し渉外感(それゆえの対象感:何かに対し動態が働いているということ)も生じ、たとえば「ところせし(所狭し)」は所(ところ)に対し障害感が生じ所が狭(せま)く、逆に言えば、「ところせき」何かは大きい(あるものがいるその所がそのものにとって狭(せま)ければそのものはその所では大きいということ(下記※参))。「うるせし」は「うる」(不満・不平)に対し障害感がある。つまり、不平不満があまり生じない(つまり「うるせし」は「うる」に障害感がある)。つまり、「うるせし(うる狭し)」は不満・不平を生じさせないものであることを表現します。

※参 「うち笑みたまへる御愛嬌ところせきまでこぼれぬべし」(『源氏物語』:そこからあふれるほどだった)。

「宮の御琴のねはいとうるせくなりにけり」(『源氏物語』:上達した・申し分ない状態になった)。

「然(さ)だに心得てはうるせき奴(やつこ)ぞかし」(『今昔物語』:なかなかたいした奴だ)。

「ざえ(才)かしこく心ばえもうるせかりければ、六位ながら世のおぼえやうやうきこえたかくなりもてゆけば…」(『宇治拾遺物語』:申し分ないから)。

 

◎「うるし(漆)」

「うるすひ(潤吸ひ)」。潤(うるほ)ひを吸ったような、濡れを吸ったような状態を保ち、艶(つや)があるもの、の意。これはある種の樹木から採取する樹液を塗料に用いたものであり、それを塗ると濡れを吸ったようにつややかになります(御存知でしょうけど)。樹液を採るその樹木も「うるし」と言います。