◎「うまし(旨し・巧し)」 (形容詞ク活用)

「うむはやし(『うむ』早し)」。『うむ』は納得・満足の表明発声。「はやし(早し)」は、速度が早いのではなく、効果的という意味(「はやし(早し)」という形容詞は経過の意外感や感銘を表現することが意味の基本です→「はやし(早し・逸し)」の項)。「うむはやし(『うむ』早し)→うまし」は、非常に効果的に「うむ」だ、非常に効果的に納得・満足させるもの・ことだ、という思いの表明。食べ物が「うまい」や歌が「うまい」「(ものごとが)うまくいく」などの「うまい」はこれ。技術が巧み、という意味にもなりますが、必ずしも誉めているとは限りません。悪賢い巧みさもあります。

「飯(いひ)喫(は)めどうまくもあらず(味母不在)」(万3857)。

「新羅(しらき)甘言(うまこと)して誑(あざむ)くことを希(ねが)ふは天下(あめのした)の知(し)れる所(ところ)なり」(『日本書紀』欽明天皇秋七月)。

「熟(うまく)諸(もろもろ)の苦悩を受けず」(『大智度論』天安二年(858年)点:これは、巧みに、ではありません。(心的に)満ち足りて→十分に→まったく、の意)。

「ヤァうまひ所へ出合ふたな」(「浄瑠璃」)。

 

◎「うまし(美し)」(形容詞シク活用)

「うむはし(うむ愛し・美し)」。「うむ」は納得感心発声。「はし(愛し・美し)」(形シク)は感嘆表明。まったく、充分に、納得し感心する状態で「はし(愛し・美し)」という表現。

「うまし国(くに)そあきづしま大和(やまと:原文は、八間跡)の国(くに)は」(万2)。

「なんでふ心地すれば、かく物を思ひたるさまにて月を見給ふぞ。うましき夜に」(『竹取物語』)。

 

※ 「うまし」にはク活用とシク活用の二種があるということです。