「う」の空虚感(下記※)を基底にした「うれ(熟れ)」「うみ(膿み)」といった動詞がありますが、これは「う」の空虚感が構成の空虚さ、力の弱さ、緩(ゆ)み、柔らかさ、を表現します。「ひ」は、「ひ弱(よわ)」や「(鳥の)ひな(雛)」などにある、小ささや弱さを表現する「ひ」→「ひ」の項。この「うひ」、すなわち、空虚感があり(構成力が弱く)、柔らかく、小さく、弱いこと・もの、という表現が、生まれたばかりのもの・こと、を表現した。原意的印象は(人も含め)動物、とりわけ小鳥の孵化したばかりの雛(ひな)かもしれません。そして事象としての「うひ」は、初めて、や、慣れない・未経験、という意味にもなります(これは経験的空虚ということです)。「うひまご(初孫)」。「うひジン(初陣)」。「うひザン(初産)」。これが二つ重なった「うひうひし(初初し)」(形シク)という形容詞表現もあります。

「まだ思ひ知らぬうひ事ぞや」(『源氏物語』)。

「我はけさうひにぞみつる花の色をあだなるものといふべかりけり」(『古今集』:これは物の名を読み込んだ歌として作られており、「さうひ」が入っています。「さうひ」は「薔薇」の音(オン)であり、薔薇(ばら)のこと。我はけさうひにぞみつる→我は今朝(けさ)初(うひ)にぞ見つる(今朝初めて見た)。ということであり、後半の「あだ」は、「徒(あだ)」ではなく、漢語の「婀娜(アダ)」です。たをやかで美しい、とか、なまめいて色っぽい、とか、そんな意味です。アダな姿のお富さん、のアダ)。

 

※ これは4月10日に『「う」の語意分類』で触れたのですが、『空虚感を表現する「あ」(「あえ(落え・熟え)」の項)がU音化し遊離した動態感が生じている「う」「うげ(穿げ)」「うせ(失せ)」「うみ(倦み)」「うれ(熟れ)」「うゑ(飢ゑ)」「うし(憂し)」』、ということです。