◎「うば(乳母)」

「おひみはは(負ひ見母)」。「おひ」が「う」に(OIの連音がU音に)なっています。「おひ(負ひ)」は、立場が自然現象としてあるのではなく、立場を人工的・二次的に負っている、の意。「み(見)」は子供(とくに乳幼児)を見ること、世話をすること、育てること。そうした立場の「はは(母)」が「おひみはは(負ひ見母)うば(乳母)」。負って見る母、ということですが、母に代わって乳幼児に乳与えるなどしこれを養う人(女)です。母がいなくなってその立場になるわけではなく、母もいて「うば(乳母)」もいます。「めのと(乳母)」とも言う(ただし、「めのと」は、(子に対して)親代わり、という印象が強く、男が「めのと」であることもあります)。

「をさなき心にあさましくなげきて、うばにともすればうれへ怠状しけれども、猶ゆるさず」(『古今著聞集』:「怠状(タイジャウ)」は詫(わ)びること。この語は日本独特の用法のようです)。

『日本書紀』の神代の部分にも乳幼児の世話をする(生みの母ではない)女の話はあるのですが、そこでは「うば」とは言われていません。「ちおも(乳母)」や「ゆゑびと(湯坐)」となる「をみな(女性)」という言い方。

歴史的には、乳母は、江戸時代の春日局(かすがのつぼね:徳川家光(いえみつ)の乳母)のように、相当な権力者となる者もおり、江戸では乳母は奉公人中もっとも給金が高かったそうです。ただし、乳母にもいろいろな形態はあるでしょうし、庶民の乳母はまた別でしょうけれど、将軍家が行うような正式なものの場合、乳母には武士のように扶持(ふち)が支給されますが、家からは離れ、実子は里子に出したようです(実子の生活は幕府によって保障されます)。

 

◎「うば(祖母)」

「おひみはは(覆ひ御母)」。「おひ」が「う」に(OIの連音がU音に)なっています。「を(緒)」の関係で(「いも(妹)」の項参照)族全体を覆っている印象の母、の意。父母の母、さらには年老いた女一般、を言います。「おば(大母)」「おぢ(大父)」・「をば(小母・伯母・叔母)」「をぢ(小父・伯父・叔父)」という男女の対はあるのですが、「うば」には対はありません。あるいはこの言葉の起源は古く、族関係の中心が女だった時代のもので、男は対になれなかったのかも知れません。

「祖母 ウバ 父母の母也」(『文明本節用集』)。

「此姫は老翁(おきな)老婆(ウバ)が儲(まうけ)たる孤子(ひとりご)也」(『太平記』)。

 

・つまり、「うば」には「うば(乳母)」もあれば「うば(祖母)」もあるということです。また、「おば(大母・祖母)」「をば(小母伯母・叔母)」という語もあり、混同しがちです。