◎「うつぶし(俯し)」
「うちへいふし(内へい伏し)」。「へい」が「ふ」のような音(オン)になりつつ「ちふ」が「つ」になり「ふし」が濁音化しています。「い」は動態の持続感連続感を表現します。「うちへいふし(内へい伏し)→うつぶし」は、姿勢が(自己の)内へ向かいふしたような印象のものになること。「衣(きぬ)を引きぬがせむとすれば、うつぶして声立つばかり泣く」(『源氏物語』)。「ふしめ(伏し目)になりてうつぶしたるに…」(『源氏物語』)。
◎「うつぶせ(俯し)」
「うつぶし(俯し)」の他動表現。「うつぶし(俯し)」にすること。自分をその状態にして寝た場合、顔が(前面が)下を向いた状態で寝ることになります(前面が上を向いたり向けたりすることは「あふのき(仰き)」「あふのけ(仰け)・「あふむき(仰向き)」「あふむけ(仰向け)」)。椀のような器を「うつぶせ」にした場合、口を下にしておかれます。
◎「うつぶき(俯き)」・「うつむき(俯き)」
・「うつぶき(俯き) 」―「うちへいむき(内へい向き)」。「い」は動態の持続感・連続感を表現します。姿勢が(人の)内へ向かっている印象のものになること。背が曲がり視線が下へ行きます。「ものの来ければうつぶきて見るに…」(『宇治拾遺物語』:身を隠すように、背を曲げるようにして見た)。「うつぶいて拾う」(『史記抄』)。
「うつむき」とも言います。
・「うつむき(俯き)」―「うつぶき(俯き)」の動態傾向になること。「うつむいてきけば草なるひばりかな」(「俳句」)。
◎「うつぶけ(俯け)」・「うつむけ(俯け) 」
・「うつぶけ(俯け)」―「うつぶき(俯き)」の他動表現。「うつぶき(俯き)」にすること。「(水壺が)みなうつぶけてある」。「うつぶけにする」が、人を「うつぶき(俯き)」の状態にする(たとえば椀を伏せたような状態にする)という意味で、人をないがしろにすることも表現します。「大臣(金のある客)の連れ来たる太鼓(太鼓持ち)また役者風情の者に、大臣をうつぶけして人目を忍び(遊女に)会ふもあり」(「評判記」)。
「うつむけ」とも言います。
・「うつむけ(俯け)」―「うつむき(俯き)」の他動表現。「うつむき(俯き)」にすること。「桶をうつむけてふたにし候て…」(『鉄放薬方並調合次第』)。「うつむけにする」が、人を「うつむき(俯き)」の状態にするという意味で、人をないがしろにする、侮(あなど)りばかにする、ことも表現します。「『やァ、あれ(菜の御浸し)が七匁(モンめ(下記※))五分(ブ)たァ、あんまり人をうつむけにしやァがる…』『そないにおっしゃりますな。ありゃ京の名物で…』」(『東海道中膝栗毛』)。
※ この「匁(もんめ)」という字は「文(モン)」と「メ」を合わせて日本で作られた字です。江戸時代の貨幣単位としては一匁は一両の約六十分の一(五十~八十分の一)。現代の価値で一両十三万円とも言われていますから、その六十分の一で2166円。その7倍でも15000円以上。菜の御浸(おひた)しが15000円以上。