◎「うたたけだに」

「うてはたくゑだに(棄て畑、蹴ゑ田に)」。「うて(棄て)」は棄(す)てること。「くゑ(蹴ゑ)」は後の「け(蹴)」。蹴(け)ること(「ける(蹴る)」という動詞の「け(蹴)」の原形は「くゑ(蹴ゑ)」だということです)。この「うたたけだに」は『古事記』の歌謡43にある表現ですが、畑を棄て田を蹴り、畑や田を耕す日常的な、そして生きるために必要な、ことを全て放擲(なげう)たせる状態で女に(そんなものどうでもよくなるほど魅力的な女に)対面したらしい。「かもがもと(あのようにあったらと)我が見し子ら かくもがもと(このようにあったらと)我が見し子に うたたけだに対(むか)ひ居(を)るかも」(『古事記』歌謡43:最後の「も」は、まぁのような、感嘆の発声。その前の「か」も感嘆。夢想的に『彼(か)』のようにも、と思い、まさに此(こ)のようにと思う女と現実に向かい合ったらしい。この歌は、蟹の身になっているような奇妙な歌。宴席の場で、女性の前に(ごちそうとしての)蟹があり、その蟹が目を飛び出させてその女性を見上げているような状態になっていたのかもしれません)。

 

◎「うただのし」

「うたてたのし(転楽し)」。「うたて(転)」はその項参照。絶頂的に楽しい、の意。『古事記』の歌謡41にある表現。

「この御酒(みき)の 御酒(みき)の あやにうただのし」(『古事記』歌謡41)。