◎「うたがひ(疑ひ)」

「うといやかひ(『諾』と『嫌』交ひ)」。「うつやかひ」のような音(オン)を経つつが「うたがひ」になった(下記※)。「う(『諾』)」は受け入れ、納得、承認、承諾を表現する発声であり、客観的には、帰属の自己認容を表現する「うけ(受け・請け)」の語幹にもなっています。「けふのうちに否(いな)ともうともいひはてよ。人頼めなる事なせられそ」(『信明集(さねあきらシフ)』(900年代中頃か後半頃))。「いや(『嫌』)」は否定、さらには拒否、嫌悪、を表現します「いや(嫌)」の項。「と」はこの場合は共動態を表現する助詞。「うといやかひ(『諾』と『嫌』交ひ)うたがひ」は、受け入れ、納得、承認と否定や拒否が交感を生じ交錯すること。受け入れることと拒否することが交錯すること。この「うたがひ(疑ひ)」という動詞は、「父か母かとうたがひ」(『方丈記』)のように、「~とうたがひ」という表現がなされ、「と」で思念的に確認される内容に関し受け入れと否定が交錯します。これは自動動態です。「Aをうたがひ」という場合も原意的には「を」は状態を表現しています。「吾(あ)は汝(いまし)命(みこと)の若し墨江中(すみのえのなかつ)王(みこ)と同(おや)じ心ならむかとうたがひつ」(『古事記』:「おやじ(同じ)」と「おなじ(同じ)」はほとんど同意であり、奈良時代にはどちらも同じような頻度で使われます)。

※ 古代においては現代よりもT音の子音は明瞭だったと思われます。つまり「つ」は今の「tsu」よりも「トゥ」に近い音。

 

◎「うたがはし(疑はし)」(形容詞シク活用)

「うたがひはひあやし(疑ひ這ひ怪し)」。疑ひの情況感があり怪しい。