「うすよ(失す世)」。「うせ(失せ)」の他動表現「うし(失し)」(意味は、喪失させること)があったと思われます。それによる「うすよ(失す世)」。「うす(失す)」はその「うし(失し)」の連体形。つまり、「うすよ(失す世)うそ」は、喪失する世(失せる世)、ではなく、喪失させる世(失す世)、だということです。その場合、喪失させる主体は何かといえば、それは「よ(世)」であり、喪失させられる客体は何なのかと言えば、それも「よ(世)」です。つまり、たとえばある言語表現で「よ(世)」が現れる場合、その「よ(世)」が「よ(世)」を喪失させる「よ(世)」であること、それが「うすよ(失す世)うそ(嘘)」。つまり、「うそをつく」ことは世(よ)を、社会や世界を、失わせる、喪失させる、ということである。その場合、「よ(世)」とは経験経過であり(「よ(世)」の項)、世(よ)を失ふことは自我を失ひ自我破綻の危険がありその不安により「うそ(嘘)」に根源的な忌避感が生じます。ちなみに、「嘘」、すなわち「口(くち)」が「虚(うつろ)」、というこの字は中国にもありますがそれがそのまま利用された和製漢字のようなものであり、中国語では「嘘(シュイ)」はゆっくりと息を吐くことを意味し、「嘘」に日本語の「うそ」の意味はありません。中国語では日本語の「うそ(嘘)」は「假話(ジィアホア)」(下記※)や「謊言(ホアンイェヌ)」と言います。

「無き事をうそをつき、人をたらすが妄語なり」(「御伽草子」:「たらし」は、何ごとかや何ものかがあると思わせること)。

この「うそ(嘘)」は動詞「うそぶき」やそこから生じた「うそをふく」という表現の「うそ」とは別語です。

※ 日本の文部省の漢字字体では「仮話」。

 

ついでに「うせり(鼿り)」(動詞)の語源

「ウンしへり(運為謙り)」。何かを運ぶようにし謙(へりくだ)り繰り返し頭を下げているような動作をすること。獣が鼻で物を動かすことを言います。「鼿……ウセル 鼻動物也」(『色葉字類抄』)。