「うしいはく(大人曰く)」(大人(うし)が言うことには)が「い」が無音化し「うしはく」と言われ、「うしはく。『………』」と命令が伝えられ、それにより、「うしはく」が「うしいはく」をすること、命令、指令、指図(さしず)を実行し現実化すること、権威として君臨すること、を意味する動詞になっていった。これは「うすはき」とも言います。これは「うしゆはく」でしょう。「いふ(言ふ)」が「ゆふ(言ふ)」に向かっています。

「汝(な)がうしはける葦原中国(あしはらのなかつくに)は我が御子(みこ)の領(し)らす国ぞと」(『古事記』)。『古事記』のこの部分(「うしはける」)はわざわざ字音(「宇志波祁流」)で書かれており、奈良時代においても、この語は古語であり古代的な権威を表現する語だったのでしょう。

「海原(うなばら)の辺(へ)にも沖(おき)にも神留(かむづま)り領(うしは)きいます諸(もろもろ)の大御神たち」(万894)。

この「うしはき」という動詞の主体は常に神であり(つまり神代(かみよ)を感じさせるほど歴史的・古代的権威があり)、「うし(大人)」という語とともに、これは相当に古い時代からの語なのでしょう。

「うし(大人)」に関しては5月3日。この「うしはき(領き)」という動詞は「うさぎ(菟)」の項(5月1日)における「因幡の白兎」伝説の意味でも登場しました。