「うしなはず(失はず)」が「うしなはらず(牛名張らず)」の変化(「ら」は子音が退行化し消音化した)。「(~が)失(う)せ」の他動表現「(~を)失(う)し:~をなくし」があったと思われます。つまり自動表現「うせ(失せ)」・他動表現「うし(失し)」。「あせ(褪せ)」の他動表現「あし(飽し)」などもありました→「(酒を)あさず食(を)せ」(『古事記』歌謡40:飽くことなく飲め)。そして、たぶん若い女が若い男に、何かを贈る際、「牛名張らず(うしなはらず):うし(牛・失し)になる事なく→なくさず」持て(なくさないでね)、と言うことが行われ、やがて「うしなはらず→うしなはず」が「うしなふ」の否定形と受け取られ、独律動詞化した。「名を張る」は、自分はそうした名だと(つまり牛だと)世の中に対し示された状態になること。すなわち「うしなふ」は何かを(何かに関し)「うし(失し)」になること、何かに関しその何かが失せた状態になること。Aを失(うしな)ひ、は、Aが喪失した状態になること。「白たへのあが下衣うしなはず持(も)てれわが背子直(ただ)に会ふまでに(直接会っていると言えるような状態で)」(万3751:「持てれ」は「持ち」に完了の助動詞「り(終止形、る)」のついた命令形。持ってあれ、ということ)。人が喪失した状態になることはその人が死んだことを意味したりもします。「ひとりもちて侍(はべ)りし子をうしなひてのち」(『源氏物語』)。古くは、意図的・意識的に喪失させること(取り壊し(滅失し)たり、殺したり、追放したりすることも)も表現しました。「罪うしなふばかり御おこなひ(仏教の読経など)をとおぼしたてど」(『源氏物語』)。「いやいや小督(こがう)があらんかぎりは世中よかるまじ。めしいだしてうしなはん」(『平家物語』:殺そう)。