「をゐしりさき(尾居後先)」。「をゐ」が「う」になっている。「しり」はR音は退化しつつ全体が退化した。「をゐしり(尾居後)」は、尾がある後(後部)、という意味ですが、動いたり、とりわけ走ったり、した場合、前部ではなく、後部になる部分です。「をゐしりさき(尾居後先)うさぎ」は、その尾のある後部(しり)が(行くてたる)先にあるもの、の意。どういうことかというと、通常は動物が走る際、尾は後から行くものですが、兎の場合はその尾が先を行く。「を」は線状に長いものを意味しますが、ここでいう「を」は動物に通常ある「尾」ではなく、耳のことです。つまり、「うさぎ」は「尾(を):耳」が先を行くもの、という意味。その長い耳が印象的だったのです。「うさぎ」の古代東国方言に「をさぎ」(万3529)があります。これは「をしりさき(尾尻先)」。言っていることは「うさぎ」と同じです。動物の一種の名。

 

『古事記』に有名な「因幡(いなば)の白兎(しろうさぎ)」の話があります。この「白兎(しろうさぎ)」は原文では「素菟」と書かれ、日本の古くからの野ウサギは一般に褐色です(冬に白くなるものも一部にはいるようですが)。これは「いなばしるをうしはき(去なば知るを領き:居なくなれば正体を知られる者が(いなくなれば正体を知られることを)権威ぶる)→いなばしろうさぎ」という諺(ことわざ)めいたものでもあったのでしょうか。意味は、実態もないのに偉そうに権威ぶり、権威を振り回すことです。その兎が「和邇(わに)」をだましてひどい目にあい(赤裸にされ→正体を暴かれ)、大国主の命に傷を治してもらい(下記※)改心し本当に権威あることを言った(八上比賣(やがみひめ)はあなたと結婚する、と言った)ということです(つまり、大国主の命には権威を本物にする力がある)。だとすると「素菟」は、読みは「しろうさぎ」ですが、意味は色の白というわけではなく、ただ「しろ」という音(オン)が伝承されていただけであり、「いなば(因幡:原文は、稲羽)」ももともとは地名ではないということになります。

 

※ その治療法は、水で身体を洗い敷いた「蒲黄(かまのはな):蒲(がま)の穂、と言われるあれをほぐしたもの」の上でころがれ、というもの。この蒲(がま)の穂が日本の野生種の兎の色です。つまりこれは元通り毛が生えるということ。