『万葉集』歌番4430に「いをさたばさみ(伊乎佐太波佐美)」という表現があります。「たばさみ」は「手挟み」であり、手でつかんだりかかえたりして持つことですが、「いをさ」は「いへをさ(家長)」であり、「家長(いへをさ) 手挟(たばさ)み」は、(家族の者みなが頼りにしている)家の主人を(手軽に物を持ち運ぶように)手につかんで(持っていき)、ということでしょう。「荒男(あらしを)のいをさ手挟(たばさ)み向(むか)ひ立ちかなるましづみ出(い)でてと吾(あ)が来る」(万4430:荒男が向い立ち『出(で)て』と言い、私はここにいる…。腕をつかむなどされながら向かい立ったのでしょう。これは古代、防人に召集された者の歌です)。「かなるましづみ(可奈流麻之都美)」は、「きはなるめはしつつみ(牙歯なる目刃しつつ見)」。厳しい恐ろしい目で見、の意。
この「いをさ」は、一般に、小さい矢のことと言われています。「い小矢(をさ)」ということらしいのですが、矢(や)を意味する「さ」という語はないです。