◎「いや(彌)

「い」は進行感を表現します。「や」は理解が成立せず驚くような発声。驚きの発声「え」と経過を表現する「ふ(経)」が融合すれば「ゆ」になりそこにA音の開放感が作用すれば「や」になります。歴史的にそのような言語表現を経て「や」になったと言っているわけではありません。そうした音(オン)の語感作用が働いているということです。「いや(彌)」は、動態や情況の進行、その進行のレベルや規模、への驚嘆表現。「いや重(し)け吉事(よごと)」(万4516)。「いや遠長(とほなが)に」(万478)。「いやがうへにも(彌が上にも)」(彌(いや)以上にも)。

「いよ(愈)」「いよいよ(愈)」は「いよいよ(愈)」の項。「いやいや(彌彌)」という表現も有ります。

 

◎「いや(嫌)」

「い」は進行感を表現しますが、それは自発動的進行感であり情感や動態の表現感を強めます。「や」は投げ捨てるような非常に原始的な発声に由来します。これが拒否感・否定感を表現します。たんに「や」にもなります。「老の来るのはいやぢゃぞ」(『中華若木詩抄』)。「いやいや、そうでもない」。「これはあなたがやってください」「いやです」。「いやけ(嫌気)」。「いやがらせ」。「いやオウもなく(嫌・応もなく)」(意思など無視して)。

 

「いや(感)」

「い」は進行感を表現し、それは自発動的進行感であり情感や動態の表現感を強め、「や」は理解が成立せず驚くような発声であり、「いや(彌)」と同じなのであるが、それが自己の情動興奮や進行の表現になっている。「かの人は目前に西の白雲と天に上らせ給ふ事いや有難しとも…」(「仮名草子」)。「いやはやなんとも」(「は」は感嘆の吐息)。