◎「いみ(斎み・忌み)」 (動詞)

「い」は進行感を表現します。活用語尾の「み」のM音は意思的動態を表現します。この「い」は、心情も含めた意味での、求心性の動態進行を表現し、逆に言えば、環境に対し消極的に作用し、何らかの環境要因に触れない、さらにはそれを避け、それから遠ざかりそれを遠ざけ、それによる影響を受けまいとする努力にもなります。具体的にどういうことが「いみ(斎み・忌み)」になるかは生活や歴史においてさまざまな要因が働き偶発的にほぼ無限にその類型はありうるわけですが、そこには永い人類史的経験の蓄積による知が作用している場合もあり、それにより禍(わざはひ)が避けられ平安・豊かな生活が保障される場合、それは尊重し敬うべき「斎み」になります(逆に言えば、その「斎み」を無効にしたときに生じる禍の予感は深刻なものとなります)。すなわちそれは畏(おそ)れ敬うべきものとなります。

環境からの遊離は環境による、汚れや穢(けがれ)による、矛盾や歪みや病変の自然回復ももたらし、「いみ(斎み)」は浄化も意味します。「いみみや(斎宮):「いつきのみや(斎宮)」の別名」。「いみび・いむび(斎火):祭事に用いられる特別な火」。

「いみ(忌み)」となる行為で最も日常的で一般的なのは親子の間や兄弟姉妹の間での性交、すなわち近親相姦でしょう。これは二十世紀にもなればもはや誰も特に「いみ(忌み)」などと表現しない常識化した忌みになっています。

「隠沼(こもりぬ)の下ゆ恋ふればすべを無み妹が名(な)告(の)りついむべきものを」(万2441:「したゆ(下ゆ):下から」)の「した(下)」は、上着に対する下着のようなものであり、奥の見えない部分、の意。(表面からは見えない)「こころ(心)」も意味します。思いを寄せている異性の名を口に出して言うことが「いむべきこと(してはならないこと)」だったようですが、その思いが真剣であればあるほど軽々しく言えないことは今も同じでしょう)。

 

◎「いみき(忌寸)」

「いみきき(忌み効き)」。忌みに効果のある人。忌むだけの価値のある人。古代の姓(かばね:八色(やくさ)の姓(かばね)・天武天皇十三年)の一つで、第四位。『日本書紀』天武天皇十四年六月に姓(かばね)を賜う記事がありますが、「いみき」姓を受けたのはほとんどがそれまで「連(むらじ)」だったものです(つまり職業系(→「むらじ(連)」の項)。