「イビフし(異美付し)」。「イ」「ビ「フ」」はそれぞれ「異」「美」「付」の音(オン)。「イビフし(異美付し)→いぶし」は通常の美ではない美をつけること。汚れ・古色のような美をつけること。「いぶし銀(ギン)」。
具体的にどのようなことをするかというと、硫黄(いわう)を燃やし銀や銅などをその煙にさらしその煤で独特の曇りをつけます。この作業から、何かを煙にさらすこと、なにかを煙の中に閉じ込めるような状態にすることも「いぶし」と表現するようになります。「狐はけぶりをいやがる物じゃといふに依(よっ)て、両人していぶいて(いぶして)正体をあらはし…」(「狂言台本」)。さらには、人が煙たがるようなことを言うこと(説教すること)、さらには、嫌がるようなことを言うこと(つまりいじめるようなこと)も「いぶし」と言います。
この「いぶし」から活用語尾がR音の(「いぶし(燻し)」の自動表現化の)「いぶり」が生じ、これは煙にさらされること(「いぶりがっこ」(漬物の一種:これは秋田の漬物であり、大根などを囲炉裏の上に吊るして燻製状態にします。大根がいぶされていぶっているわけです))のほか、何かが、明瞭に炎をあげず、煙だけだすようにして燃えることを意味します(これは「くすぶり(燻ぶり)」に意味が似ています)。また、揺することを意味する動詞「いぶる」(ゆぶる:揺振る、の変化)による「いぶりやく(揺振り焼く)」(揺すり回しながら満遍なく焼く)という表現もあったのかも知れません(揺り動かす、という意味の「いぶり」という動詞もあります。忌み・斎みを平然と踏みにじるような状態であることを意味する「いぶり」もあります)。つまり「いぶり」には、煙だけだすようにして燃えるような状態になること、揺り動かすこと、忌み・斎みを平然と踏みにじるような状態であることを意味する三つがあるということです。