「いひなあづけ(言ひ名預け)」。「いひな(言ひ名)」は、言ふ名、名(な)のる名(な)、です。「いひなあづけ(言ひ名預け)」は、その名のる名(な:自己の言語呼称)を預(あづ)けること、その合意、さらには、その合意にある人、です。たとえば「A」という名の人が「B」という名の人の「いひなあづけ(言ひ名預け)→いひなづけ」を受け「いひなづけ」たる人(言ひ名を預けられた人)になった場合、それにより名「B」を預けられた人「A」は預けられた名「B」を名のり得る(それにより生じる社会的責任も利益も名(な)Bに帰属する)。しかし、それは預けられているのであり、返還(あるいは収容)も有り得ます。それが完全に与えられ(それを完全に得)それが完全に帰属し完全に自己のものとなるのは(つまり、二人が完全に一つの名になるのは)結婚したときです。名詞たる「いひなづけ(許嫁・許婚)」は、原意的には「言ひ名」を預けた人から預けられた人を言いますが、習慣的には預けられた人から預けた人も言っています。漢語の「結婚(ケッコン)」は二人の関係に起こっていることを客観的に表現しているだけです。「婚」の「昏(コン)」は暗いことを意味しますが、これは、昔、中国では結婚(嫁入り)は暗い時に(つまり夜や夕暮れどきに)行われたからだそうです。英語の「marry」(結婚する)はラテン語系・フランス語系の語で、ゲルマン系の表現では結婚は「husband」(「家(いへ)括(くく)り」のような表現)なのかもしれません(英語はゲルマン系言語です)。二人によって構成される一人の表現は(古い日本語における「結婚」は)、「しめを(締め緒)」です(「むつき(睦月)」の項)。 

「已(すで)に人にいひなづけて事定まりぬる中を」(『太平記』)。