◎「いはみ(聚み)」(動詞)

語頭の「い」は直線的な進行感それゆえの持続感を表現します。「はみ」は「はめ(嵌め)」の自動表現。それは限定域に入り収まる状態になることを意味し、「いはみ(聚み)」、すなわち、進行的・持続的に限定域に入り収まる状態になること、は、集まり、集合し、のような意味になります。「八十梟師(やそたける)彼処(そこ)に屯聚 (いは)み居たり 屯聚居 此をば怡波瀰萎(いはみゐ)と云ふ」(これは『日本書紀』の神武即位前にある語ですが、その原文に「屯聚」の読みが「いはみ」とわざわざ書かれているのですから、『日本書紀』、あるいは、それがよった資料、が書かれた頃もうすでにこの語は古語だったのでしょう)。

 

◎「いばえ(嘶え)」(動詞)

「いばはえ(い歯映え)」。語頭の「い」は馬の鳴声の擬音(下記※)。「いばはえ(い歯映え)いばえ」は、馬が「いいいい」と鳴声を発し歯が映えた(歯を剥きだした)状態になること。「いばひ」という言い方もありますが、これは「いばえ」が「いばへ」と誤用されかつ四段活用になったもの。

「馬どものいばゆる音も……をかしくおぼさる」(『源氏物語』)。「荒たる馬のいばえ声」(「御伽草子」)。

(馬の鳴声の擬音)

これは「いなき(嘶き)」の項でも触れましたが、古く、馬の鳴声は「い」と表現しました。万2991に「馬聲蜂音石花蜘蛛荒鹿」という原文があり、これは「いぶせくもあるか」と読む。「馬聲」を「い」と表現しています。

 

◎「いばら (茨)」

「いみはら(忌み原)」。そこへ入ること、そこに居ること、が忌まれる(そこには近寄らない方が良いと思われる)ような原、そして、原をそうした状態にする植物、を表現したもの。なぜ忌まれるのかと言えば、そこはある種の植物の原になっておりその植物には無数の刺(とげ)があるからです。刺(とげ)のある植物とはたとえば野薔薇(のばら)や枳(からたち)などですが、原で、その茂みで、その刺(とげ)ゆえにとくに印象深い植物に「いばら」の名が定着していき、「い」が落ちそれは「ばら(薔薇)」にもなります(古い辞書には刺(とげ)あるものは皆「いばら」と云うとも書かれています)。「棘 イバラ …凡有刺者皆曰棘」(『書言字考節用集』(17世紀末))。「うばら」という言葉もあります。これは「うみはら(倦み原)」。意味は「いばら」と同じようなものです。