◎「いなづま(稲妻)」

「いにやうつつま(去に矢現間)」。「う」は無音化しました。「いにや(去に矢)」は一瞬飛び去っていく矢であり、それが一瞬の出来事であることを表現しています。「うつつ(現)」は、後には「夢うつつ」といった言い方がなされるようになりますが、明瞭な現実感を表現することが原意です(「うつつ(現)」の項)。「いにやうつつま(去に矢現間)いなづま」は、ほんの一瞬の現(うつつ)の間。稲光がした瞬間、ほんの一瞬世界が明瞭に見えたその瞬間を表現し、世界がそうなるその現象、すなわち気象現象たる雷(かみなり)、それが発光したその瞬間の世界、を表現したものですが、その光源も意味します。

◎「いなつるび」

「いにやつるみひ(去に矢蔓見日)」。「いにや(去に矢)」は一瞬飛び去って行く矢。「つるみひ(蔓見日)」は(植物の)蔓(つる)を見たような日(世界を一瞬明るくする日のようなもの)、の意。これも気象現象たる雷(かみなり)を表現したものであり、その光源を意味しますが、その現象自体も意味します。「いなつるき」とも言います。これは「いにやつるきひ(去に矢蔓牙日)」。一瞬飛び去って行く矢のような蔓(つる)のような牙(きば)のような日。この「つるび」は、一般に、(動物の)交尾を意味する「つるび・つるみ」と解され、古代、農民の間では稲が稲妻(稲の妻)によって霊的なものと結合し…などともいわれるのですが、稲が交尾するという表現はどうかと思われます。

◎「いなびかり(稲光)」

「いにやひかり(去に矢光)」。一瞬飛び去っていく矢のような光、一瞬飛び去っていく矢のように光ること。気象現象たる雷(かみなり)を表現しその光源も意味します。「いなづま(稲妻)」参照。

 

◎ついでに「いなび(否び)」(動詞)の語源

「いな(否)」の動詞化。「いな(否)」を現す状態になること。意思動態的M音活用語尾による「いなみ(否み)」もあります。意味は拒否すること、拒(こば)むこと。「いなみ(否み)」は四段活用。「いなび(否び)」は上二段活用で否定は「ひなびず(ぬ)」。「び」に関してはその項。「都び」「荒び」などの「び」です。