江戸時代に言われたある種の文化風俗態様です。「いなせ(去なせ)」。動詞「いに(去に)」の使役型他動表現「いなし(去なし)」の命令形。それも、関西方面でよく言われるような、行かせる、帰らせる、戻す、という意味の、新たな遠心的進行を生じさせるわけではなく、求心性が生じないよう放置し運動や動態を回避するもの。江戸時代、ある種の風俗態様・文化態様にある者たち(事実上、若い男(女はいても極めて少数だったでしょう))が町の一般の人々に、かかわりあいになるな、厄介だから去なせ(行かせろ・やりすごせ)と言われたことによるもの。江戸時代、その生き方自体が「粋(いき)」であり、つまり自分に陶酔し(どこかへ行ってしまっており「いき(粋)」の項(11月(去年)2日))、勇み肌と言われ昂揚感があり威勢が良い者たちがおり、彼らは漢字で「侠気」と書かれ、身体が「彫り物だらけ」と言われた者もいました。その者たちは「いなせ」とも言われました。彼らは、悪人ではありませんが、対応は厄介だったのです。

 

・「いなし(去なし)」(動詞)の語源

動詞「いに(去に)」の使役表現の独律動詞化。行かせること。去らせること。捕らえた者を自由にする、長居の客を帰らせる、さらには、離縁する、悪口を言う(人間関係を突き離すようにする)、効果を去らせる(酔ふた酒をいなす:いい気分の酔いを台無しにする)、向かって来る動きをかわす(相撲の「いなし」)等々、一般的な表現なので様々な意味で言われます。「いやいやいなす事はならぬと是非(ゼヒ)に奥へ連れ入り給ふ」(「歌舞伎」)。「此の貧乏はどふじゃいなと、いっきにわしをいなしくさる」(「滑稽本」:悪口を言う・馬鹿にする)。