「いちひひこ(いちひ日子)」。「ひひ」は子音は退化し無音化しました。「いち」は進行感が突出していることを表現します(→「いち(市)」の項の日・12月28日)。「ひ」は、「ひな(雛)」のそれのように、小ささや弱さを表現します。「いちひ」は、非常に小さいということ。「いちひひこ(いちひ日子)→いちご」は木苺(きいちご)の実(植物学的には偽果)による名です。それも、全体ではなく、それを形成する一粒。これを、とても小さな日(太陽)の子(赤ちゃん)、と表現しました。つまり全体の意味は「とても小さい日(太陽)の子(日(太陽)の赤ちゃん)」ということ。後世において「いちご」として一般化する、赤い、鈍い円錐状のそれは19世紀以降に渡来したものです(これが名を奪いつつ商業的にも圧倒的に広まっていったわけです)。植物の一種、特にその実、の名。「いちびこ」とも言います。
「あてなるもの(品よく美しいもの)。……削(けづ)り氷(ひ)にあまづら入れてあたらしき金鋺(かなまり)に入れたる。水晶(スイサウ)の数珠(ズズ)。藤の花。梅の花に雪のふりかかりたる。いみじううつくしきちごの、いちごなどくひたる」(『枕草子』)。
「蓬蔂丘の誉田陵(ほむたのみささぎ)の下(もと)に 蓬蔂 これをば、いちびこ(伊致寐姑)、と云ふ」(『日本書紀』雄略天皇九年七月)。