◎「いたみ(痛み・傷み)」(動詞)

「いたやみ(痛病み)」。痛みは身体の一部がそこなわれることによって起こる生態保存のための警鐘的生理感覚でしょうけれど、「いた(痛)」という語(12月16日)は、身体の一部を切断したり打撲を受けたりして生じるそうした生理感覚を基本としつつ、それだけではなく、そこに生じる苦痛・心痛・苦労・心労も、すなわち心情的なことも、それゆえに社会的原因によるものも、意味します。「やみ(病み)は健常な状態ではなくなることですが、「いたやみ(痛病み)」は「いた(痛)」の状態で病むことであり、単に上記のような意味での警鐘的生理感覚たる痛みを感じること(1)だけではなく、心情的に苦痛にあることも意味します(2)。また、病むことは健常・正常な状態ではなくなることであり、「いたみ」は障害や故障を生じたりすることも意味します(3)。その場合の「いたみ」は多く「傷み」と書かれます。懐(ふところ)がいためば出費により経済的に苦痛があり、果物がいためば腐る。

.「傷がいたむ」。

.「心がいたむ」。「いたういたむ人の、強ひられて少し(酒を)飲みたるもいとよし」(『徒然草』)。

.「築六十年。屋根もいたんだ」。

「いた (甚)」の形容詞表現「いたし(甚し)」の語幹を動詞化した「いたみ(甚み)」という表現もあります。「風をいたみ(甚み)」(万2736:風が激しく。原文表記は「痛」)。

動詞「たみ(廻み・訛み)」(曲がること)に進行感を表現する「い」のついた「いたみ(い(廻み)」もありますが、これは偶発的な表現でしょう。「丘の埼(さき)いたむるごとに」(万4408)。

 

◎「いため(痛め・傷め)」(動詞)

「いたみ(痛み)」の他動表現。「いたみ(痛み)」の状態にすること。痛い思いにさせたり傷つけ損なったりなどする「いたみ(痛み・傷み)」参照。

 

◎「いため(炒め)」(動詞)

「いりたわめ(炒り撓め)」。「り」と「わ」の子音は退化しました。「いり(炒り)」は時間をかけて加熱することであり、「たわめ(撓め)」は「たわみ(撓み)」の他動表現でありしなやかにすること。フライパンなどに油をしき(敷かないこともあるでしょうが)野菜などの材料全体を加熱ししなやかにすること。料理の調理法の一つ。

 

◎「いたまし(痛まし)」(形容詞シク活用)の語源

「いたみああし(痛みああし)」。「ああ」は感嘆発声。(心情的に)痛(いた)み(特に悲嘆的)感嘆の声が漏れる心情であることを表明します。「主人の下知(命令)によてしいでたる事ゆゑ、忽(たちまち)に命を失ふ事せちに(切実に)いたましく」(『十訓抄』)。心労・苦労していることも表現します。「いたましうするものから(いたましくするものながら)下戸ならぬこそ男(をのこ)はよけれ」(『徒然草』:(酒を勧められ)迷惑そうな顔をして心労しているようでいながら下戸ではない方が男は良い)。ちなみに、古文の「ものから」は「ものながら」と読み替えられます。意味が酷似しているのです。