◎「いすか(交喙)」

「いひしゆか(言ひしゆか)」。「ゆ」は経験経過を表現する助詞のそれ(これの語源は今は触れません。長くなりますから)。この場合の「ゆ」は起点を意味しますが、動態結果が起点の場合、それは判断の起点ということであり、それは原因になります。「いひしゆか(言ひしゆか)→いすか」は、言ひしよりか、言ったことによりそうなっているのか、言ったことでそうなっているのか の意。これはある種の鳥(小鳥)の名ですが、この鳥は嘴(くちばし)が食い違っています。口が歪みまがったように見えます。(口が歪んでしまうような)何かを言ったからそうなったのか、と鳥に問いかけているような命名。

 

◎「いすかし (佷し)」(形容詞シク活用)

「いすかはし(交喙嘴)」の形容詞化。「いすか(交喙)」は鳥の名。上記。「はし(嘴)」は嘴(くちばし)のこと。「交喙嘴き人(いすかはしきひと)」のような表現がなされ、元来はク活用でしょう。それが形容詞として成熟しシク活用と評価される状態になった。交喙(いすか)の嘴(くちばし)は食い違っていることから、(人間性が)歪んだり、ひね曲がったり、(人と)うまく合わなかったりしている印象を表明します。「毛野臣(けなのおみ)、人(ひと)と為(な)り傲(もと)り佷(いすか)しくして治体(まつりごと)を閑(なら)はず」(『日本書紀』)。

 

◎「いすくはし」

「いすかえいはし(交喙え言はし)」。「かえい」が「けい」のような音(オン)わ経つつ「く」になっています。「いすか(交喙)」は鳥の名。「え」は(この場合は意外さへの)驚きの発声。「いはし(言はし)」は「いひ(言ひ)」の尊敬表現。これは「交喙(いすか)」への尊敬表現ですが、これも敵へのからかい。「いすかえいはし(交喙え言はし)→いすくはし」は、交喙(いすか)も『え』とおっしゃり→交喙(いすか)もお驚きになり、という意味。交喙(いすか)という鳥は嘴(くちばし)が食い違っており、ものごとの食い違いの象徴として言われます。その交喙(いすか)も驚くほど、ということであり、とんでもない予想外の食い違いが起こった、と敵を笑っています。これは『古事記』歌謡10にある表現ですが、この歌は自分が作った罠に自分が落ちた敵を笑っている歌です。「鴫(しぎ)は障(さや)らず いすくはし 鯨(くぢら)障(さや)る」(『古事記』歌謡10)。