◎「いし(石)」の語源
「いし(射為)」。「い(射)」を為(す)るもの、射るもの、の意。何を射るのかと言えば、猪や鹿その他です。闘争になれば人も射たでしょう。石とはそういうものであり、まだ弓矢もなかったそうした時代に「いし(石)」という言葉は生まれているということです。太古はそのように石で狩をしたのでしょう。これは鉱物を言いますが、打ち当てて効果のない小さなものや、人が手により射続けることに適さない大きなものは元来「いし(石)」ではありません。しかし、歴史的には人間の管理下にあるものは相当に大きなものも「いし」と言うようです→「にはいし(庭石)」。「かぶつつい(株槌)いしつつい(石槌)もち撃ちてしやまむ(槌)」(『古事記』歌謡11:「つつい」は「つち(槌)」のこと)。
◎「いは(岩)」の語源
「いへはは(家母)」。「へ」は後音「は」に吸収されるように消えた。非常に古い時代、自然に開いた岩穴や岩裾が奥まったような状態になった部分(岩陰)に居住することが相当に広く行われていました(新潟県・室屋洞窟遺跡、長崎県・福井岩陰遺跡その他)。その居住施設となっている岩が、まるで母の胎内が家であるかのようでもあり、家の母体という意味で「いへはは(家母)→いは」と呼ばれ、それが相当に大きな岩石を意味する語として一般化した。古代・東国の方言に「いへ(家)」を「いは」と表現するものがありますが、なにか関係があるのかもしれません。「いは(伊波)の妹(いも)ろ吾(わ)をしのふらし真結(まゆす)びに結(ゆす)びし紐(ひも)の解(と)くらく思(も)へば」(万4427)。あるいは「いは(伊波)なる妹(いも)は清(さや)に見もかも」(万4423)。