◎「いさな(鯨)」の語源
「ゆせあな(湯背穴)」。「ゆ」は「い」に交替しました。湯を吹く背の穴のあるもの、の意。この生物にある外鼻孔排気の印象です。いわゆる(鯨の)「潮吹き」。これは湯気が立っているようにみえます。海に棲息する動物の一種の名。「くぢら(鯨)」 (歴史的表記には「くじら(鯨)」もあります。どちらかと言えば「ぢ」の方が正確だと思います)の古名・別名。様々な種類の「くぢら(鯨)」がいます。
◎「いさなとり(枕詞)」の語源
「いさ」は『さぁ...』と言葉を濁らせているものであり、これは不知(知らぬふりも含め)や迷いなどを表現します→「いさ(不知)」の項(11月24日)。「なとり」は「な取り」であり、「な言ひ」(言ってはなりませんよ)のような、取るな、という禁止表現(→「な(助・副)」の項)。これは「な・動詞連用形」で柔らかな禁止を表現します。たとえば「な触れ」(触れてはいけませんよ)。これに「そ」がついて「な触れそ」と言ったりもします。「いさなとり(枕詞)→『いさ…』な取り」は、さぁ...、よくわからない、というような不知や明瞭に判断できない態度はとるな、の意。不覚を取るな、のような意。これは枕詞ですが、「海、浜、灘(海の難所)」といった海に関係したことにかかります。海は危険だからです。また、これは「いさな」すなわち「くぢら(鯨)」を取るという勇猛なことをする二重意にもなっているのでしょう。
「いさなとり海の濱藻(はまも)の寄る時時(ときとき)を」(『日本書紀』68:これは、ずっとあなたと一緒にいられるわけではない、稀(まれ)にいらっしゃるその時を逃(のが)したら会えない、というような歌)。