室町時代の、助詞とも言われる「い」です。これは「へイ(平)」。つまり「平」の音(漢音)。「へ」は無音化しました。「へイ(平)」は、「たひら(平)に」ということであり、平服せよ(平服する)、従え(従う)、のような表現。たとえば「やめい(止めい)」(やめろ)は「やめよ、ヘイ(止めよ、平) 」。これが、やめえい、のような音を経、「え」は前音の母音に吸収されるように消え、「やめい」になります。ほかには「のけい(退けい)」(どけ)。それが慣用化し、「い」が他者に平服を命じるような、さらには、あることがらや自己の心情に平服しているような、心情を表現する語になります。「やめい(止めい)」(やめろ)の場合は動詞命令形に「い」がついている状態になるわけですが、「いはひ(言はい)」や「まゐらい(参らい)」といった言い方もあり、「いきい(往きい)」といった言い方もあります。前者は未然形、後者は連用形についている状態になります。前者は「いはんい(言はん(言はむ)、い)」でしょう。言うであろうこと、言おうとすることに平服、ということであり、言うことを強くすすめています。後者は「いき(往き)」に平服を意味する「い」がつき、往(い)って平服、往くことに平服、ということであり、(命ずるかのように)往くことをすすめています。関西弁の「はよ(早よ)いきいな(行きいな)」などという場合の「い」もこれ。

この「い」により何かのことがらや自己の心情に平服しているような(つまりそれらを強意する)、心情も表現されます。「何を言ひやるぞい」、「たいしたことぢゃないわい」、「悟ってみればそんなものかい」、「ああそうかい」。