「ありかて(有り克て)」。「あり~」は動態が一般的であること、存続すること、そのまま続くこと、を表現します(→昨日の「あり(有り・在り)」の項)。「かて(克て)」は自己を維持すること(→『音語源』「か(克て)」の項)。「ありかて(有り克て)」は、維持することが一般的であること、有ること自体、その状態や存在それ自体、を維持する、のような意味になります。これは例外的に肯定表現(それも、そうかもしれない、という推量的なもの)もありますが(→「かて(克て)」の項)、ほとんどが、自分や世界が維持されない、という否定表現です。「君に恋ひつつありかてぬかも(有不勝鴨)」(万2470:これ以上このままではいられない)。
「あり」ではなく他の動詞でも同じようなことが言われます。「君をし思へばいね(熟睡ね)かてぬかも」(万607:深く眠ることが維持されない。ろくに寝られない)。肯定表現がないのは、あるべき・あるはずの、自分が維持された、という思いになることは事実上ないから、ということです。
※「ありかて」を動詞として評価している辞書もあります。