「あやかはし(文交はし)」。「あや(文)」は同心円状の幾重もの輪の印象を言いますが(→『音語源』あるいはひとつ前の投稿の「あや(文・綾)」の項)、そんな印象を交感させるもの・こと、が「あやかし」。海上の幽霊を言います。これは船に憑(つ)くそうであり、美しい女だったりもするようです。意味発展的に、怪しいこと・ものも言います。「其(そ)の科(とが)今おもひしれと焼捨けるに、煙の中にて最期わきまへ狂ひぬ。物のあやかし、かやうの事ぞ」。「あやかり」とも言う。これは「あやかはり(文交はり・変はり)」であり、「かはし(交はし)」が自動表現になっています。意味はほとんど変わりません(これは動詞「あやかり(肖り)」の連用形名詞化ではありません)。これを動詞化した「あやかす」もあります。意味は騙すこと。