◎「あふぎ(仰ぎ)」

 「あひほき(会ひ祝き)」。語尾は濁音化しました。動詞は元来は「あふき」と清音でしょう。「あひほき(会ひ祝き)→あふぎ」は、敬意を感じている何かと(何かを)一体性を感じつつ(会ひ:これと同化しつつ)「ほき(祝き)」を行うような動作・態度を現すこと。「ほき(祝き)は何かに関し特異的に秀でた客観的発生感が発生している状態になっていることを表現します。「君が御門(みかど)を天のごとあふぎて見つつ」。「みどりこの乳(ち)乞ふが如く天(あま)つ水あふぎてそ待つ」(万4122:旱魃が起こっています)。「仰ぎ見る」は上を見る印象が強いですが、「あふぐ(仰ぐ)」という動詞は必ずしも空間的に上を見ることは意味しません。敬う何かへの依頼を表現したりもします。「あふげば尊(たふと)し」。「冥助(神の助け、のような意)をあふぐ」。

他動表現に「あふげ(仰げ)」があります。意味は「あふぐ」状態にすること。たとえば「あふげて置く」は物を「あふむけ(仰向け)」にして置く。

◎「あふぎ(扇ぎ)」

「あへいふき(合へい吹き)」。「い」は「いかよふ(い通ふ)」その他のように、動態の持続・連続を表現します。「あへいふき(合へい吹き)」は、合わせこれを吹き続けること。どういうことかというと、火に合わせ(日の地点や加勢に合わせ)これを吹き続ける、ということであり、口でやらねばならないそれを代替するものです。これを平面的で部分的なものを使い手で行います。つまり「あへいふき(合へい吹き)→あふぎ(元来は、あふき、と清音でしょう)」は、火に風を送ること・送るもの。とくに、竈(かまど)などの火勢の処理から生まれた表現でしょう。これが風を送ること・もの一般を表現するようになります。風を主体にした自動表現もあります(「暖風のまづあふぐ処」)。慣用的な発音は動詞は「あおぐ(扇ぐ)」、連用形名詞化は「おーぎ(扇)」のような音になります。