「あはゆき(淡雪)」。存在感の希薄な雪。似たような、というよりもこの「あはゆき(淡雪)」の元になったような、表現に「あわゆき」があります(→『音語源』「あわゆき」の項:これは相当な量でふんわりと積もっている雪です)。つまり、後世では「あはゆき(淡雪)」という言葉が一般的ですが、歴史的には「あわゆき」という言葉もあるということです。「あわゆきか はだれに降ると見るまでに流らへ散るは何の花そも」(万1420)。これは采女(うねめ)の歌だそうですが、なかなか美しい歌です。この「あわゆき」の原文は「沫雪」。「沫」は通常は「あわ」と読みます。「万763」に「玉の緒を沫緒(あわを)によりて結べればありて後にもあはざらめやも」という歌がありますが、この「沫緒」は「あはを(淡緒):存在感の希薄な緒」では歌が奇妙なことになり、何かの飛沫のような読み方をすることも奇妙なことになります。「あわ(泡)」でもない。これは(「あわゆき(沫雪)」の)「あわ」。