「ああはといふうか(『ああは』と言ふうか)」。「ああ」は感嘆や驚きの発声。「は」は提示。つまり「ああは」は感嘆したり驚いたりしている何かが提示され、そうしているように何かに心が奪われたようになっていることを表現します。「~といふ(~と言ふ)」は、それを「~ちふ」のように言い、そのように書くことは『万葉集(800)』にも例があり、ここでも「あはちふうか」のように変化し「あはつか」になっています。「うか」は「うかみ(窺見)」や「うかと」「うかり・うっかり」などにあるそれであり、注意や警戒心が喪失している情況にあることを表現します。「あはといふうか(『あは』と言ふうか)→あはつか」は『ああは…』と何かに心が奪われ注意や警戒心が喪失している情況にあること、注意力の喪失した、間抜けであったり軽々しく軽率であったりする状態であることを表現します。「何事ぞなど、あはつかにさしあふぎゐたらむは…」(なんですか?と間抜けな顔でこちらを仰ぎ見た)、「さまざまとりあつめさもあはつかにうかれける身のありさまかな」(思慮深さを感じない軽率な印象だった)。
これの形容詞表現で「あはつけし」(ク活用)があります。これは「遥か→はるけし」のような変化が起こっています。意味は「あはつか」な印象だということです。「あはつけき声(こわ)ざまにのたまひ…」。