古くは「あしひきの」と清音。「あはしひくいの(会はし引くいの)」。「は」は消音化し「くい」が「き」になりました。「あはし(会はし)」は「あひ(会ひ)」の尊敬表現。お会いになり、の意。「い」は指示代名詞のようなそれ(→『音語源』「い」の項)。非常に古い時代、「それ」のように漠然とことやものを指し示す「い」がありました。「お会ひになり引くそれの」のような意ですが、お会いになり引くそれ、とは、お会いになり(私を)引くそれであり、それが山を意味します。夏山などに女の子を誘い男女間の何かがあるのです。この枕詞は基本的に「やま(山)」にかかります。男が女を誘い、会うことになると、人目のある方(里の方)ではなく、人目のない方(山の方)へ行きたがるのが常だったわけです。山はそういう場所でもあったということです。この枕詞が「いはね(石根)」にもかかるのは「言はね(「ね」は否定「ぬ」の已然形)→言はないが…・誰にも言わないが…」にもかかっているのでしょう。枕詞ですから、言葉遊びのように様々な意味が込められている可能性があり、ここにも「あはしひくいの(合はし引く射の)」、獲物を狙うように狙いを合わせ引く弓の射の、の意もあり、これが「やま(山)」の「や(矢)」にかかっているのかもしれません。また、単純に「会はし引きの→あしひきの」(お会いになり(私を山へ)引く(誘う))という表現もあったようです。「あしびきの」は「峰(を)」にもかかりますが、これは「を(男)」にかかっているのでしょう。「あしびきの」だけで「山の」を意味することも起きています。