死神とギター
和田剛
35年駅員を勤めている
これは、この人の日記の1ページだ
8月15日
今日も終電間際のホームにギターの音が奏でられていた
奏でると言う程綺麗な音色ではない
しかし85日間もこの音を聴いていると、上手いも下手も分からなくなる
要するに慣れたのだ
Am・C・Dm・E7
この音しか流れないギター
これで奏でられるのは吉田拓郎の夏休みくらいだ
もちろん今ホームで流れている音楽はそんな名曲に成りうる筈もない
しかし人間は不思議だ
毎日これを聴いてると、この歌を覚えてしまう
しまいには口ずさんでいる
〝太陽は何を照らすの
世界の皆を照らすのさ
太陽はどうして照らすの
皆が生きる為さ
風は何を揺らすの
人間の心を揺らすのさ
風はどうして吹くの
皆が生きる為さ〟
こんな意味の分からない歌でさえ口ずさむのだ
人間は恐ろしい
そのギター弾きの前には今日も少女がいた
髪をピンクに染めた少女
制服を着ている
たぶん高校生だ
青少年育成法に違反する時間だ
しかし私は咎めない
あの少女には近づけない
そんな気がしている
54日間もそんな状態だ
二人が会話をしているのを見たことが無い
たぶん二人は他人だ
しかし今日二人に変化が起きた
これからは二人の会話を主として書き進める
男はその歌を歌った
普段は終電の電車が来るまでずっと同じ歌を歌い続けるが今日は違っていた
ギターを置いて男はこう問うた
『いつもここにいるね
僕の歌、聴いてくれてるの?』
女は答えた
いや、正確には答えなかった
『あなたは何を歌うの』
少女は問うた
男は困惑した
少女はあの歌のメロデイそのままに男に問うたのだ
『僕は…詩を歌うんだ』
少女は笑った
『だから、あなたは太陽も風もこないここで歌うのね』
続けて少女は問うた
いや、歌った
『あなたはどうして歌うの』
男も歌った
『生きた証拠を残す為さ』
少女のピンク色の髪が少しなびいた
『それ、私が叶えるわ』
少女は満面の笑みだった
釣られて男も笑った
その瞬間目映いばかりの光がホームを照らした
『太陽だ!』
そしてゴウゴウと風も押し寄せた
『風だ!』
男はそう叫ぶとそれに向かって飛び出した
それが最後の言葉となった
【終電の電車に飛び込み自殺】
新聞の片隅に彼は載った
生きた証拠を残したのだ
【僕は…死を歌うんだ】
今思うと、彼はそう言ったんだと思う
end
35年駅員を勤めている
これは、この人の日記の1ページだ
8月15日
今日も終電間際のホームにギターの音が奏でられていた
奏でると言う程綺麗な音色ではない
しかし85日間もこの音を聴いていると、上手いも下手も分からなくなる
要するに慣れたのだ
Am・C・Dm・E7
この音しか流れないギター
これで奏でられるのは吉田拓郎の夏休みくらいだ
もちろん今ホームで流れている音楽はそんな名曲に成りうる筈もない
しかし人間は不思議だ
毎日これを聴いてると、この歌を覚えてしまう
しまいには口ずさんでいる
〝太陽は何を照らすの
世界の皆を照らすのさ
太陽はどうして照らすの
皆が生きる為さ
風は何を揺らすの
人間の心を揺らすのさ
風はどうして吹くの
皆が生きる為さ〟
こんな意味の分からない歌でさえ口ずさむのだ
人間は恐ろしい
そのギター弾きの前には今日も少女がいた
髪をピンクに染めた少女
制服を着ている
たぶん高校生だ
青少年育成法に違反する時間だ
しかし私は咎めない
あの少女には近づけない
そんな気がしている
54日間もそんな状態だ
二人が会話をしているのを見たことが無い
たぶん二人は他人だ
しかし今日二人に変化が起きた
これからは二人の会話を主として書き進める
男はその歌を歌った
普段は終電の電車が来るまでずっと同じ歌を歌い続けるが今日は違っていた
ギターを置いて男はこう問うた
『いつもここにいるね
僕の歌、聴いてくれてるの?』
女は答えた
いや、正確には答えなかった
『あなたは何を歌うの』
少女は問うた
男は困惑した
少女はあの歌のメロデイそのままに男に問うたのだ
『僕は…詩を歌うんだ』
少女は笑った
『だから、あなたは太陽も風もこないここで歌うのね』
続けて少女は問うた
いや、歌った
『あなたはどうして歌うの』
男も歌った
『生きた証拠を残す為さ』
少女のピンク色の髪が少しなびいた
『それ、私が叶えるわ』
少女は満面の笑みだった
釣られて男も笑った
その瞬間目映いばかりの光がホームを照らした
『太陽だ!』
そしてゴウゴウと風も押し寄せた
『風だ!』
男はそう叫ぶとそれに向かって飛び出した
それが最後の言葉となった
【終電の電車に飛び込み自殺】
新聞の片隅に彼は載った
生きた証拠を残したのだ
【僕は…死を歌うんだ】
今思うと、彼はそう言ったんだと思う
end