☆☆☆☆★
2011年公開。
石井裕也監督作品ということで、期待して観ました。
期待通りに面白かった。
メインキャストはオッサン。光石研、田口トモロヲ、岩松了が、いい味を出しています。夢半ばで挫折したオッサン、子育てに翻弄されるオッサン、生活に疲れたオッサン、何者にもなれなかったオッサンにこそ見てほしい作品。身につまされるんだけど、そこはあまりにもリアリティになりすぎないように誇張して描かれているので、面白く観ることができます。
そうかと思えばチョイ役に藤原竜也、綾野剛、染谷将太が起用されていたり、無駄に豪華なのが笑えます。
中小企業の配送業社に務める宮田はしがないオッサン。一浪して大学受験を目指す息子と、現役で大学受験する娘がいるが、ろくに会話もなく、話しも噛み合わない。妻にガンで先立たれたシングルファーザー。男手一つで子供達を育てるが、報われない日々に鬱屈としている。唯一の親友である真田もまた、介護に追われていた父親が他界、介護のために仕事も辞め、妻にも逃げられた不遇の身だが遺産が入ったことで憧れていたソフト帽を購入、宮田にイジられながらもステイタスのように被り続けている。時々居酒屋で酒を酌み交わし、言葉の過ぎる宮田を真田は見捨てることなく、宮田もまた真田に心を許していた。実は宮田には胃の不調があり、妻同様にガンなのではと疑うのだった。受験を控えた子供二人を残して先立つことに不安を募らせる宮田だった。
前半が宮田がガンではないかと悩みながら、子供達とどう接してよいのかわからない葛藤が描かれます。まぁ最初から胃ガンは宮田の思い込みで本当は何でもないんだろうな、と予想はしていましたが、案の定でした。心配しすぎて先回りして遺影まで用意してしまうトンチンカンなところが、不器用な昭和のお父さんって感じでほのぼのします。息子と通信対戦しようとゲーム機を購入するのですが、よくわからないままに買ってしまったので息子とは違う機種だったというオチ。結局、対戦は同じゲームを買った真田とだけしかできませんでした。娘の帰りが遅いのを心配して真田と共にゲーセンを探すと、真田が娘の友達から援交を持ちかけられた事で説教するシーンも、全然説得力のある言葉ではないし、キョドっていました。肝心の娘は援交には手を出さず、先に帰宅してすでに就寝していたというオチで。
とにかくそういう、子供達が大切で、一所懸命なんだけど空回りして報われない感じが、愛おしんですよ。
後半はガンではないことがわかって、宮田と真田の関係性や、真田と子供達それぞれのエピソードにフォーカスがあたります。実は子供達も宮田とはよく似た親子で、口下手で遠慮があって、素直に父親に感謝の言葉を言えないだけで、けっして父親を疎んじているわけではないという事が描かれます。そして宮田と真田の少年時代の誓い。いじめられっ子だった二人は、恰好良い大人になるんだ、と誓います。愚痴をこぼし、弱音を吐き、涙をこぼす宮田に真田は言います。「恰好良い大人は泣かないんだぞ!」
あぁ、なんだろうな、不器用な友情。言葉足らずで雄弁ではないけれど、二人が築いてきた時間と信頼が伝わってきます。もちろん、それにも強がりで返す宮田ですが、そうやってこの二人はずっと付き合ってきたのでしょう。全然恰好よくないし、全然パッとしない男同士の友情。それこそドラマや映画で語られるような特別なエピソードなどないけど、それでもここに至る歴史が、間違いなくあるということを感じさせる、素晴らしい演技と演出だったと思います。
息子も娘も大学に合格し、親元を離れて東京へ。それぞれの新しい住まいへ荷物を運ぶ父親。新しい生活、新しいスタート。寂しさをまといつつも父親としての仕事をまっとうする宮田。一人になった彼は、それでも今日も競走馬のごとく職場に向かう。というところで終幕。
ところどころコメディタッチで大袈裟に描かれてはいるけれど、鬱屈した劣等感や焦燥感、人生の折り返しをすぎても何者にもなれなかった虚無感等々、オッサンや父親にはとてもリアルで刺さる作品ではないかなぁと思いました。
後半は、前半に真田が被っていた帽子を宮田が受け継ぎ被ります。恰好良いっていうのは、他人から見て「恰好良く」見られるということではなく、自分が「恰好良い」と思える生き方をすることではないかなぁと思います。宮田の生き方は、意地を張って強がってでも子供達には絶対に心配をかけたくないという、父親の恰好良さだったのではないかな。そんなのは子供達にはお見通しで、客観的に見れば全然恰好良くはないんだろうけど、不器用で一所懸命な昭和のお父さんは、私は恰好良いと思います。