☆☆☆★★

 

2021年公開。

細田守監督作品。

観ていては面白かったんだけど、見終わった後に振り返るといろいろ疑問もあります。

仮想世界が舞台なのは「サマーウォーズ」をそのまま借りてきた感じ。

登場人物の設定は「美女と野獣」でしょうか。主人公となる歌姫のアバターの名前は「ベル」だし、彼女と絡む「竜」は立ち位置的にもビジュアル的にもキャラ的にも「野獣」ですね。ベルと竜をつなぐのにバラがモチーフになっているあたりも。

ベルの実態(オリジン)である女子高生すずの物語なんだけど、キャラの設定が深掘りされていて共感できました。現実でも仮想世界でもすずをサポートする親友のひろちゃんが、良い味を出しています。一方で男子の同級生は、あまり詳しくは描かれていません。幼なじみのしのぶも、同級生のカミシンも、すずの関係者としてしか描かれないのであまり印象は強くありません。

現実世界では母親を事故で亡くした事で歌を歌うことが出来なくなり、すっかり陰キャになってしまったすずですが、仮想世界では圧倒的な歌唱力でカリスマとなるあたり、仮想世界の可能性という点では今風で面白いと思うし、現在のネットが抱える様々な匿名性故の問題なんかも描かれていてリアリティがありました。独善性や行き過ぎた正義感はもちろん、無責任な誹謗中傷等、様々な問題が起こっていますからね、実際のネット社会でも。

終盤の児童虐待は仮想世界を離れて現実世界での事件となりますが、そこに至る過程では仮想世界のネットワークが大活躍で、IT技術で遠隔でも様々な問題を解決できるあたり、リアリティがあります。ネット上の問題だけでなく現実社会の問題も描くあたりは、「サマーウォーズ」よりも現実寄りの作品になっているようです。

竜のオリジンを探すために、ベルとしてではなくすずとしてネット上に素顔を晒して歌うシーンは、本来であれば感動すべきところなのかもしれませんか、ネットの匿名性とそれ故の悪意を考えると、とても恐ろしいことだと思いますね。実際にSNSで素顔を晒して発信している方がたくさんいらっしゃいますが、私にはとても無理です。現実社会全体が、プライバシーに無頓着になっているのかなという気がします。作品中でもオリジンの特定に腐心するユーザーが描かれていますが、実際にもそういう活動をしている方はネット上には沢山いるしね。

冷静に考えればところどころ整合性が合わなかったり、説明不足な点もあります。特に終盤は急ぎすぎな気がしないこともないし、上手くまとめた感がなきにしもあらず。過程で吊し上げを食らったユーザーの現実での影響を考えると、彼らこそ報われてほしいなという気もします。竜のオリジンであるケイくん兄弟の家庭環境が、あれで解決したとも思えないし。

以前に比べて作画は綺麗だし、臨場感も増した感じがします。すず=ベルの歌唱力が圧巻でした。