☆☆☆☆☆
2017年公開。
面白かった。文句なく、面白かった。ミュージカルという点では「ラ・ラ・ランド」よりも面白いし楽しい、申し分のないエンターティメント作品だと思う。
サクセスストーリーであると同時に、家族の物語でもあると思う。奥さんも子供達も、最高。
だいたいのサクセスストーリーは、ある程度成功すると調子に乗って、それまで苦楽を共にした仲間を裏切ったり、支えてくれた家族を蔑ろにしたり、成功が自分だけの力であるかのように過信して道を踏み外す傾向がある。しかし本作には、それがない。過程で誤解は生じるものの、基本的に主人公のバーナムは仲間達も家族も、大切に思っています。また、貧乏人が成り上がるためには手段を選ばず、人を踏み台にしたり、欺いたりしても成功しさせすれば許される、終わりよければ全て良しみたいな主人公至上主義みたいなところもあるけど、本作ではそういったペテンはいっさいなし。そういう点も、今までの成り上がりサクセスストーリーとは違った爽快感があります。
貧しい仕立屋の息子・バーナムは、お得意様である富豪のお嬢様であるチャリティと幼い頃から愛を育んできた。成人したバーナムはチャリティと結婚する。この時、チャリティの父は「娘はすぐに戻ってくる、貧乏暮らしに耐えかねて」と忠告するんだけど、それがそうはならないんだなぁ。どんなに貧しくてもチャリティはバーナムを信頼し、二人の娘を愛し、いつもバーナムの味方でいてくれる。家計が大変なのに、けっしてバーナムを責めるどころか愚痴も言わず、笑顔でバーナムを支え続ける。こんな嫁なら、男性はいくらでも頑張れるだろうな。だから娘達も、圧倒的に父親を信頼している。
勤め先が倒産してしまったバーナムは、解雇の際に持ち出した船舶登録証を元に銀行から融資を引き出し、バーナム博物館をオープンさせる。実は勤務先は12隻の船が台風で沈没してしまったがために倒産してしまったわけで、この登録証を勝手に使ったこと、船は実は沈没していたこと、がバーナムが使った唯一の詐欺的手段かな(笑
当初は蝋人形や奇抜な剥製を展示していたがまったく客が入らず。そんなある日、娘達のアドバイスでバーナムは「奇抜な人達」を集めてショーを開催することを思いつきます。博物館の呼び込みでも、「ユニークな人募集」の張り紙でも、バーナムを献身的に手伝う奥さんと娘の姿に共感せずにはいられません。
この「ユニークな人募集」でも、バーナムは嘘はつかない。誠実に一人一人と向き合います。もちろん、仕事のため、儲けるため。ですが、けっして彼らを言いくるめて騙して舞台に引っ張りだそうなどとはしません。とにかく誉めます。そして新しい世界の扉を開こう、日の当たる場所に飛び出そう、と呼びかけます。
この企画が大成功。客はもちろん、出演者も自分の存在価値を見いだしたかのように、みんなが大喜び。一方で、彼らの異形を快く思わない町のゴロツキ達とトラブルにもなります。地元紙のジャーナリストには「悪趣味なペテン、まるでサーカス」と酷評されます。しかしバーナムは腐りません。悪評を逆手にとって「この記事を持参した人は入場料半額」と宣伝に利用し、さらに大盛況に。建物の名前も「バーナム博物館」から「バーナム・サーカス」に変えてしまいます。
そんなポジティブなバーナムにも、唯一、心にしこりがありました。それはチャリティの父を見返したいという気持ち。また、いくら有名になろうとも金を稼ごうとも「成金」としか見られず、娘達もその差別を受けていることに心を痛めます。上流階級に認められるには「一流のショー」を興行する必要があると考えた彼は「一流で客は入るけど、それほど面白くはない」劇作家のフィリップをパートナーとして勧誘します。「三流だけど客が入り、しかも大評判」なバーナムサーカスに興味はあるものの、彼と関われば上流階級の生活が危うくなる、保身を考えバーナムの誘いを断るフィリップですが、最後はバーナムの説得に応じます。そして彼は、その日のうちに空中ブランコのスター・アンと恋に落ちるのでした。
フィリップのコネでヴィクトリア女王との謁見に成功したバーナムは、同じ会場で欧州一の歌姫であるジェニー・リンドと出会い、彼女のアメリカ公演を提案します。まんまと了承を取り付けたバーナムはサーカスをフィリップに任せ、自分はジェニー・リンドの公演に専念しようとします。サーカスの興行とジェニーの公演、かたや庶民の娯楽、かたや一流の芸術、それぞれのチャンネルを区別して振る舞おうとするバーナムの姿は、苦楽を共にしたサーカスの仲間達には「自分達は見捨てられた」「疎まれている」「しょせん今までの偏見の目で見てきたヤツらと変わらない」という疑念・不満となって、溝が生まれてしまいます。
一方でアメリカ公演を成功させ、長い時間を共に過ごしたジェニーは、バーナムにビジネスのパートナーとしてだけではなく人生のパートナーであることも望むようになります。ジェニーとの関係はビジネスとしてしか考えていなかったバーナムは戸惑い、ジェニーを怒らせてしまいます。ジェニーはツアーを打ち切り、しかも最後の舞台でバーナムに突然キスをして、これがスキャンダルとして報じられてしまいます。
サーカスに戻ったバーナムが見たものは、サーカスを疎ましく思う町のゴロツキ達とのトラブルの果てに炎上する建物でした。アンを救出しようと建物に飛び込んだフィリップは重傷。さらにチャリティまでも娘を連れて実家に帰ってしまいます。ただ、チャリティが実家に戻る理由が予想の斜め上を行くのが秀逸。借金により家を差し押さえられて出て行かざるを得なかったのですが、彼女の父親が言ったように「貧乏に耐えかねて」戻るわけではありません。もちろんジェニーとのスキャンダルに腹を立ているわけでもありません。家を差し押さえられるまで借金のことは知らなかった。「今まで同じ夢を見ていたのに、どうして教えてくれなかったの!」をれが彼女には悔しかったのです。自分は信頼してもらえていなかった、その事が悔しかったのです。あぁ、なんていい奥さんなんだろう。そしてやはり、男のプライドから言い出せなかったであろうバーナムの気持ちもわかります。
一度に全てを失ったバーナムですが、彼を支えたのはサーカスの団員達でした。フィリップも一命を取り留め、初心を取り戻したバーナムはサーカスの再建を決意します。建物はいらない、テントがあればいい、まさしく現代のサーカスの先駆けです。チャリティとも和解したバーナムは座長をフィリップに譲り、家族のための時間を大切にするのでした。
物語としても面白かったけど、音楽もミュージカルシーンも圧巻でした。劇中に何度も歌われるテーマソングもいいけど、髭面の歌姫の歌唱力は圧巻。映画好きにも音楽好きにもお勧めしたい作品です。