☆☆☆☆★
2008年公開。
何度も言っているが、伊坂幸太郎原作の映画とは相性が良くない。どうしても違和感を強く感じてしまう。違和感の正体はなんとなくわかっているんだけど、とりあえず今回は言及しない。
そんな私が、珍しく「面白い」と思えた作品。主演の金城武が、いい味を出しています。
ネタバレせずに感想を書くのは難しいので、ネタバレ勘弁でお願いします。
一本のストーリー作品ではなく、3つのお話しから成るオムニバス作品。しかし実は3本とも共通点があったというオチ。まぁそのオチには比較的早い段階で気づいてしまうんだけど(2話目の途中)。
金城武演じるのは死神の「千葉」。死神と言っても人間の死を司るわけではなく、なんかしがないサラリーマンみたいな描かれ方です。作品内で言及はされていませんが、なんとなく人間の死を司る省庁があって、そこで死ぬ候補を選択。死神は実際に現実世界に紛れ込んで候補者を観察し、死を「実行」するか「見送り」するかを判断するという仕事。「実行」「見送り」に明確な基準はなく、死神の胸先三寸的な曖昧な感じです。それ故に、死神が非常に人間的でもあり、情や情緒というものが描かれることになります。また死神は複数存在し、現実社会で死神同士の交流もあるというのが面白い。音楽をこよなく愛するという設定も、ストーリーに効いています。死神なので人間界の言葉や常識に疎く、トンチンカンなやりとりになってしまう場面もコミカルで楽しい。触れると人間の生気を吸い取ってしまい、気絶させてしまうので常に手袋を欠かせないんだけど、気絶程度で死に至らしめる能力はないようだ。
こういった、人間的だけど人間ではない、非常に近いけど違った存在が、候補対象の人間と交流するのは、人間同士では描ききれない心の裏側を描けそうで、面白い手法ではないかと思います。まぁ、ここら辺が私が伊坂幸太郎原作作品の映画に感じる違和感の根源でもあるんだけど、今回は上手く作用したようです。
最初は3話それぞれに無関係な話しかと思ったんだけど、どうやら時系列によって3話が続いているようです。しかも各話の間に数十年の隔たりがあるようですね。なんせ最終話には人型の家政婦ロボット(アンドロイド)が登場するくらいですから(笑
まぁ正直、このアンドロイドを登場させる意味と必要はあったのか?とは思いますが。
共演の俳優さん達もそれぞれに素晴らしく、小西真奈美に至っては歌声を披露しています。これが透明感のある澄んだ歌声で、とても素晴らしい。他に圧巻だったのは富司純子。存在感が圧倒的。老女の設定だけど凜としていて、声だけ聞くと「サマーウォーズ」の栄ばーちゃんそのもの。恰好いいおばあちゃんって感じです。
それだけに違和感を感じるとすれば、1話で自信なさげにオドオドしてネガティブスパイラルに陥り、自傷行為までするような根暗な藤木一恵が、3話では死神を翻弄するほど剛胆で毅然とした老女になっているのは、ちょっと「?」でしたね。そりゃ長い人生、いろいろありますよ。その中で人間性や性格を変えるような出来事もあったかもしれない。でも、ちょっと変わりすぎやしませんかねぇ。
人間界に来る時はいつも雨降りで、青空を見たことがない千葉。最後に雨上がりの空を見れて良かったね(笑