☆☆☆☆★
2019年公開。
面白かった。「君の名は。」で大ヒット監督となった新海誠の新作。テイストは「君の名は。」に似ているような気がしました。が、前作と違って大団円にはならないし、世の中の汚いところや理不尽な部分も描かれていて、「君の名は。」の延長で観るとガッカリするかも。前作では好い人が多かったけど、本作ではそうでもないかな。そのぶんリアリティがあるというか、主人公への思い入れも強くなりました。
主人公の穂高は、離島から東京に家出してきた高校生。家での理由は明確に語れませんが、あの年代の田舎の少年が、閉塞的な世界から都会に飛び出したいと願うのは、それほど珍しい事ではない(と思うのだが)。飛び出してはみたものの、所詮はなんの力も身分もない未成年、すぐに行き詰まってネットカフェ難民に。ハンバーガーショップに入り浸って時間を潰す穂高を見かねて廃棄処分のハンバーガーを差し入れたのがヒロインの陽菜。あやしげなスカウトと歓楽街を歩く姿を目撃した穂高は、彼女を助けようと割って入るがスカウトに返り討ちに遭い、偶然拾った拳銃を発射してしまう。なんとか難を逃れた穂高は、フェリーで知り合った怪しげな男性・須賀の出版社で住み込みで働き始め、アシスタントの夏美とも仲良くなる。雨続きの東京で、陽菜が祈ると短時間に狭い範囲ながら必ず晴れる事を知った穂高は、「晴れ女ビジネス」を持ちかける。陽菜には両親がおらず、小学生の弟と二人きりの生活で、収入が必要だったからだ。晴れ女ビジネスは成功し、沢山の感謝と収入を手にし、穂高・陽菜・弟の凪、それぞれに順風満帆に思えた矢先、穂高の発砲事件に捜査の手が伸びていた。そして陽菜の体にも異変が。
面白かったので、面白いところを語っても仕方がないからツッコミを入れることにしますね。まず穂高が拳銃を拾う件は必要だったのかな。結局、これが後で効いてくることはなくて、逆に自体を悪化させるだけだった。警察に追われ、陽菜と離れなければならない理由なら、未成年の家出少年ってだけでも十分だったんじゃないのか?いくら拳銃所持とは言え、未成年に拳銃を向ける警察ってどうなの?って思ったし、それこそ健全な青少年育成に問題のある描写なんじゃないのか、と。
拳銃にしても逃亡にしても、まったく未来に光明が見えないよな。なんの解決にもならず事態を悪化させるだけ。もちろん大人の横暴なやり方に理不尽さを感じはするけれど、何の力も正当性もない未成年が、足掻いたって何の解決にもならない。ボニーとクライドのような破滅への暴走にも通じるものがある。これは観ていてツライ。
「君の名は。」もそうだったけど、新海誠は天災が好きなんだろうか?「君の名は。」では隕石落下による集落の消失。本作では降り止まない雨による首都水没。昨年は豪雨災害が多かったし、今年も梅雨が長かった。もちろん、それをモチーフにして作ったわけではないんだろうけど、奇しくも現実的な問題とリンクしてしまったわけで。被災者の方々は、この作品をどう思っているんだろうかと心配になってしまった。作中「天気の巫女は生け贄」「一人の生け贄で雨がやむなら、人々はそれを望む」と語られ、神も人も残酷であることにおいては同レベルなのかと絶望的な気持ちになりました。でもそれが現実なんだろうな。自分の便利で平穏な生活が、誰かの犠牲の上に成り立っているのかもしれない、なんて誰も考えないよなぁ。しかし穂高も陽菜も、世のため他人のために陽菜を生け贄にすることを拒む。陽菜を助けたことで雨が降り続くことを、二人は選択する。誰に彼らを責めることができるだろうか?そして、東京は水没する。うーん、やっぱりいろいろ考えることはあるよなぁ。豪雨災害で家をなくし、住む場所を奪われた被災者がいる事実を思えば。作中では被災者が「もともと東京は海の中だった、元に戻っただけだ」と語っていたけど、そんなふうに思える人ばかりではないよなぁ。この事実を知ったら、二人を恨む人も沢山いるんだろうなと思うと、なんか怖くなったな。
就活に疲れた夏美の気分転換が、大暴走に発展するあたり、本当は就活生の皆さんはこういう展開を望んでいるんじゃないかな、なんて思ったりしてスカッとしました。
須賀は、途中で琴線に触れる良いシーンもあったんだけど、結局は自己保身と日和見なアテにならない大人の代表でしたね。最後までそれを反省しないのも、リアル?自分が妻子に抱く感情と、穂高が陽菜に抱く感情は同じものと理解して穂高を援護するのかと思いきや・・・。残念でダメな大人でした。それなのに最後までエラそうでしたね(笑
楽屋落ちなのか、「君の名は。」のキャラが出てきたような?おばあちゃんの孫は瀧くん?ジュエリーショップの店員は三葉?こういうお遊びもありかな。
それと、やっぱり絵が綺麗。七色に色を変える雨とか秀逸。背景もリアル。ここらへんは新海誠作品の真骨頂か。
好き嫌いが分かれそうな気がするけど、私は好きかな。新海誠監督作品は全部見たわけではないけど、「秒速5センチメートル」や「言の葉の庭」で感じた気持ち悪さがなくて、良かった。ただ、一歩間違うとそっち側に行きそうなエゴイズムは感じなくもない。ギリギリのところで踏み止まってくれてよかったな、と思う。